産経新聞社

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認知症予防のできる「まち」(中)場の創出

いきいき隊メンバーの永峰正康さん(左)。楽しみ、社会に役立つ感覚を抱けることが認知症予防につながる=北名古屋市


区の認知症講座をきっかけに知り合った友人と旅行の日程づくりをする石井英儀さん(中)=東京都練馬区


 ■楽しんで長く続ける

 「認知症予防に、脳の訓練をしなければ」と肩肘を張らなくても、楽しんでいたら、知らず知らずに認知症予防につながった−。地域に高齢者が楽しんで、続けたくなるような場が多ければ理想的です。そんな“場の創出”に、自治体の創意工夫が求められています。(清水麻子)

 「おじいちゃん、このくらいでいいかな?」「まだ軽いよ。お手玉を追加してみよう」

 愛知県北名古屋市で開かれた高齢者と小学生との交流会。昔の重さの単位、一貫(約3・7キログラム)をあてるゲームで、地域の高齢者組織「いきいき隊」のメンバーら約10人が“先生”になった。

 北名古屋市は平成14年度から、昔と今の橋渡しをすることで高齢者の閉じこもりを防ぎ、認知症を予防しようと、思い出ふれあい(回想法)事業を行っている。

 同じ時代を共有する高齢者同士が集まり、思い出を話し合う「回想法スクール」などを定期的に開催し、スクールの卒業生を「いきいき隊」に任命、地域活動をしてもらっている。介護保険事業の一環で、介護予備軍と健康な高齢者が対象だ。

 いきいき隊のメンバーで、先生役を務めた永峰正康さん(72)は「こま回しや割りばし鉄砲は子供たちが大喜びするのでやりがいを感じます。定年までは会社と家との往復で、地域の活動とは無縁でしたが、今では生きがいです」

 回想法事業の推進役で、国立長寿医療センターの遠藤英俊包括診療部長は「高齢者が主役となることで長く続けられ、自然と認知症予防になるのが回想法のいいところです」と話す。

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 高齢者が楽しめる「場」が地域に多ければ、閉じこもりがちな人も外出しやすい。「物忘れが気になり始めた」など、放っておくと、要介護になる可能性が高い“介護予備軍”の人も自然に参加できる。

 遠藤部長らの研究によると、回想法を行うことで、軽度の認知症の人でも、発言が的確になるなど、コミュニケーション能力が上がり、喜怒哀楽も豊かになる。

 北名古屋市では、介護予備軍が参加しやすいプログラム作りに知恵を絞る。しかし、介護予備軍の把握は簡単ではない。外出がおっくうになりはじめた人を参加させるのも至難の業。介護予備軍について、厚生労働省は当初、65歳以上人口の5%程度と推計していたが、平成18年の調査ではわずか0・4%しか把握できず、そのうち介護予防事業への参加者は全体の半数に満たない。自治体の中には、元気高齢者に偏った予防施策を行うところもあり、「介護保険料の無駄遣い」と批判が出ているのも事実だ。

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 東京都練馬区の石井英儀(ひでのり)さん(73)は今年1月、同年代の友人6人と一緒に自主グループ「たびともの会」を立ち上げた。「3月は水戸に梅を見に行きました。区のプログラムに参加したおかげでいい友人ができ、認知症に良いといわれるウオーキングも日課にでき、生活にハリが出ました」

 区のプログラムとは、平成18年度から東京都練馬区が行っている認知症予防事業。一般の高齢者が対象で、週1回、4カ月間。記憶力や計画力は認知症発症の前段階で衰え始めるが、これを鍛えるため、グループで旅の日程作りやパソコンを使ったミニコミ誌作りなどを行う。

 指南役は最初、区民の認知症予防推進員が務めるが、プログラム終了後は、自主グループの立ち上げが促され、継続的な活動につながっていくという。

 区民を対象にした認知症予防推進員の育成も区の事業。元気な高齢者の発症を予防し、認知症に理解を広げるのが目的だ。

 「ぼけ予防」(岩波新書)の著書がある須貝佑一医師は「認知症予防は参加者が楽しむだけでも十分な効果が望める。高齢者のライフスタイルはさまざま。高齢期に興味のないことには参加したくないから、地域に多種多様な小グループが多いほど選択肢は広がり、満足度も高く、予防につながる」と話している。

(2008/04/08)