産経新聞社

ゆうゆうLife

家族介護 足りない心への支援策(中)

認知症の妻(右)を介護する土屋隆司さん(左)。「妻と一緒に楽しく時間を過ごせるのも『たけのこ』のよさ」と話す=東京都目黒区の中目黒スクエア


 ■地域に多様なサロンを

 つらいのは、自分だけではなかった−。介護に悩んだとき、同じ立場の介護者らが互いの体験を話し合うサロン(家族会)が心の支えになることがあります。つらい気持ちを打ち明けたり、他人の体験を聞いたりすることで自分の介護を客観的に見ることができ、余裕も生まれるようです。介護者が無理なく参加できるサロンが地域に増えることが期待されています。(清水麻子)

 「徘徊(はいかい)には必ず理由があります。夜中だからといって出さないのは間違い。少し外の空気に触れさせるだけで必ず落ち着きますよ」

 6月、東京都目黒区で認知症高齢者と家族の会「たけのこ」の家族交流会が開かれた。5年前から認知症の妻(66)を自宅で介護する土屋隆司さん(68)は、同じ認知症の家族を介護する仲間のアドバイスに何度もうなずいた。

 1年前まで妻の徘徊に悩まされた。若く体力がある妻は何年も前に亡くなった父親を捜して、近所の家のドアをたたいた。土屋さんは自分で経営していた会社を長男に任せ、介護に専念。しかし、徘徊はおさまらない。いらだちがつのったころ、出会ったのが「たけのこ」だった。

 「たけのこ」では、午前10時から1時間は要介護者と介護者が一緒に切り絵などを楽しむ。11時からは、介護者が部屋を移って悩みを話し合う。その間、要介護者にはボランティアが付き添う。通い始めた当初、介護サービスを使っていなかった土屋さんにとって、妻と一緒に参加できることが一番ありがたかったという。

 母の介護を10年以上続ける「たけのこ」幹事の竹内弘道さんからは、デイサービスを勧められた。

 「妻は行くのを嫌がったのですが、『ご主人が一緒に行けば、奥さんは行くと思うよ』とアドバイスしてもらいまして。一緒に行くことにしたら、行けるようになったんです」

 週2日から始めたデイは週4日に増え、今では喜んで送迎車に乗る妻を送り出した後、土屋さんは体操教室で息抜きをする。「一時はつらく感じた介護でしたが、今は余裕ができ、妻をかわいいと感じます」と笑顔をみせる。

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 同じ立場の人が、共通の悩みを話し合う「ピアカウンセリング」は医療や障害などの会で多いが、近年は介護者にも広がり、虐待防止につながった例も報告されている。

 介護者の仲間づくりを支援するNPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」(東京)の牧野史子理事長によると、介護者のサロンはかつて、認知症高齢者の家族会や各地の社会福祉協議会が月に1回程度開くタイプに限られていたが、今では認知症に限らず、介護者によるものも出てきた。しかし、数は決して多くない。牧野さんは「介護者の会の満足度は『合う合わない』によるので、全国にたくさんあることが望ましいのですが、現状はそうではありません」と指摘する。サロンを継続するのは、並大抵のことではないからだ。

 兵庫県西宮市の丸尾多重子さんは5年前から同市のマンションの一室で、介護者サロン「つどい場(ば)さくらちゃん」を運営する。24時間オープンで、いつでも相談できる。父の介護をしていたとき、息を抜ける場がほしいと、社会福祉協議会のサロンに通ったが、通いに往復2時間。行っても発言する番が回ってこないなど、“不完全燃焼”だったという。

 しかし、悩みも多い。丸尾さんは「赤字続きで、行政に活動場所提供をお願いしても、協力が得られませんでした。社会貢献をしたいと思っても、立ち上げからつまずけば、地域にサロンは増えない。自治体がちょっと協力してくれるだけで全然違うのに」と打ち明ける。

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 冒頭の「たけのこ」は介護保険が始まる前の平成10年、目黒区が区の認知症専門デイケアに参加していた家族に働きかけて発足した。今も、区が保健師を、社会福祉協議会がボランティアを派遣してくれる。社協がミニデイ事業と認定して補助する活動費は会場費にあてられる。幹事の竹内さんは「だから、充実した内容で継続できる」と言う。

 積極的に介護者サロンを増やす自治体も出てきた。東京都杉並区は平成17年度からサロンを増やし、現在15カ所。家族会に活動場所を提供するほか、会を運営する時間的余裕がない介護者に変わり、ボランティアグループにNPOへ“成長”してもらって資金援助できないか検討中だ。

 お茶の水女子大学大学院の藤崎宏子教授は「介護者サロンは、介護者の孤立を防ぐために必要で、全国に増えてほしい。自治体が資金を出すのは難しいかもしれないが、小学校の空き教室を無償で貸すなど、側面支援はできるはず。ボランティアも地域の企業や大学などを巻き込めば、探すことができるかもしれません」と、自治体の柔軟な“しかけ”に期待を寄せている。

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 ■介護者のサロン

 首都圏では詳細はアラジン事務局(TEL03・5368・1955 火〜金11〜18時)へ。それ以外では、各地の社会福祉協議会や地域包括支援センターなどが詳しい。

(2008/07/22)