産経新聞社

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グループホームはだれのため?(上)

昼食に職員手作りのカレーを食べる入居者たち。食後は自分たちで食器を下げる=岡山県笠岡市の「きのこのき」


マフラーを編んで過ごす。認知症高齢者グループホームでは、お年寄りは思い思いの過ごし方ができる=岡山県笠岡市の「きのこのき」


 ■認知症の人に家庭的ケア

 認知症の高齢者が増えるなか、急増した認知症高齢者グループホーム。小人数の家庭的な雰囲気で、一人一人に応じたケアを受け、穏やかに過ごせるのが特徴です。ニーズは高く、入居待ちも生じています。しかし、必ずしも質がともなっていない実態もあるようです。(寺田理恵)

 認知症高齢者グループホーム「きのこのき」(岡山県笠岡市)では、和風の2階建て住宅に9人のお年寄りが暮らしている。

 昼時、リビング脇のキッチンからカレーの香りが漂うと、ソファでマフラーを編んでいた對馬ヨシエさん(83)が立ち上がろうとした。両腕を支えに勢いをつけ、3度目にようやく腰を浮かせると、家具につかまりながら食事用のいすに移った。

 自宅なら当たり前の光景だが、「転ぶと危険だから」と車いすに乗せる施設は少なくない。しかし、ここでは、時間がかかっても自力で動きたい對馬さんに、職員は積極的な手出しをしない。

 この日の昼食は職員が手作りしたカレーに、鶏肉と野菜の煮物。食べ終えた人は、自分で食器を下げ始めた。對馬さんも、シルバーカー(歩行を補助する押し車)にトレイを乗せて、キッチンへ運んだ。

 「きのこのき」では、決まったスケジュールはなく、お年寄りは思い思いに過ごす。体調の悪い人や重度の人は部屋で休み、リビングでは、新聞を読んでいる人もいれば、ソファで昼寝をする人もいる。對馬さんは「糸がある間は、編み物をしています」と編み棒を動かし続けた。

 グループホームは、1ユニット5〜9人の家庭的な環境で、できるだけ自立した生活を送る居住施設。入居するお年寄りは介護スタッフと食事の支度や掃除、洗濯なども行う。認知症でも、要介護度が軽く、動き回れる人には、お年寄りの動きに職員が合わせるこうしたケアが適しているとされる。特別養護老人ホームなどでの集団を対象にしたケアでは対応が難しいことから、欧州で始まり、日本でも十数年前に取り入れられた。「きのこのき」の母体で、認知症専門病院として知られる「きのこエスポアール病院」も、最初のグループホームを平成8年に開所。現在は岡山県と東京都で計9カ所に増えた。

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 「認知症介護の切り札」として期待されたグループホームだが、「きのこのき」など2カ所の統括責任者、宮本憲男さんは、介護職の研修で講師を務めた経験などから「ミニ特養化している所が多い」とする。

 特養などの集団処遇では、職員が立てたスケジュールに沿って介助が効率的に行われる。食事は厨房(ちゅうぼう)から配膳(はいぜん)車で食堂に運ばれ、限られた時間内に食べてもらう。入浴は時間帯で人数を割り振って介助し、排泄(はいせつ)介助も、決まった時間におむつ交換をする。

 これに対して、小人数のグループホームでは、お年寄りが食事の献立を自分たちで考え、買い物や調理もする。夕方や就寝前に入浴でき、尿意のあるときにトイレに誘導してもらえる。そのため、落ち着いた環境で穏やかに暮らすことができる。

 例えば、鉢植えの土を食べる行為は、集団生活では「異食をする、問題のある人」と片づけられがち。しかし、宮本さんは「その人が長年、農業に従事し、酸性かアルカリ性かを調べようと土を口に含んでいた背景が分かれば、土に似た安全な物を鉢植えに入れておくことができる」とする。小人数だから、居住者と話す時間も取れるし、意図が分かれば対応もできるのだ。

 しかし、グループホームでも、起床や朝食などを決まったスケジュールで行うところも少なくない。「経験のない事業者が参入した場合、スケジュールで管理するのがやりやすい方法だったのでは」と、宮本さんは話す。

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 グループホームは、平成12年に介護保険がスタートすると、異業種からの参入もあり、全国で急増した=表。参入が容易だったせいか、必ずしも認知症介護の専門性が発揮されていない実態もある。

 国民生活センターが16年に実施した調査では、退去の理由は病気治療のほか、「利用者・家族の経済的理由」「大声や暴力、徘徊(はいかい)など利用者が迷惑」などが目立った。その後の居場所では、病院に次ぎ特別養護老人ホームが多く、特養の待機場所となっている実態がうかがえた。

 「認知症の人と家族の会」に昨夏、寄せられた体験では、「廊下に失禁したという理由で退所させられた」「看取(みと)りに本人も家族も満足」と、評価も割れた。

 質にばらつきはあっても、「グループホームで元気になった」という利用者家族は少なくなく、多くの所で入居待ちが生じている。しかし、地元になかったり、特養より入居費用が高いなどの理由で「入りたくても入れない」の声も上がる。グループホームの現状をリポートする。

(2008/08/04)