産経新聞社

ゆうゆうLife

グループホームはだれのため?(中)

洗濯物をたたむお年寄り。「包丁を持てば見事な千切り。施錠しなくても、いなくなるトラブルは一度も起きていません」と職員


地元体育祭でもらった賞状を眺めながら、職員と話す女性


面会に訪れた家族との楽しいひととき。在宅では体調を崩しがちだったそう



 ■整備率に地域格差も

 介護保険の適用で急増した認知症高齢者グループホーム。小人数の家庭的な環境が特徴です。利用者・家族のニーズは高いのですが、「入るのが難しい」との声が聞かれます。背景には、近くになかったり、都市部を中心に費用が高いなどの問題があります。本当に認知症で困っている人が入れるような整備が求められています。(寺田理恵)

 栃木県野木町で「グループホーム森の舎(いえ)」などを運営する友志会は、住民との交流を深めるため、毎年、夏祭りを開く。何十発もの花火を打ち上げるイベントに、隣接する茨城県古河市からも見物人が訪れる。

 古河市の斉藤陽子さん(57)=仮名=は「車で10分の所に住んでいますが、野木町と古河市の境界線は高いですよ」と話す。亡くなった義父は「森の舎」で暮らしていた。義母(89)も入れたいと望んだが、それが容易でなかったという。

 義母は生け花の師範。高齢になっても水泳や謡曲を楽しんだ。夫の死から約1年後、認知症と分かったが、義母は認知症を受け入れられなかった。集団で過ごすのも苦手で、デイサービスを嫌がった。

 陽子さんは施設をあちこち探し、「信頼関係のある森の舎に入れたい」と考えた。「デイに行くのを激しく嫌がって暴れた義父が、森の舎では人間が変わったと感じるほど落ち着いた」からだ。

 ところが、森の舎には原則、野木町民しか入れなくなっていた。18年の法改正でグループホームが、市町村指定の「地域密着型」に移行したからだ。町内に家を借りることも検討したが、結局、野木町の知人宅に住所を置かせてもらえることに。やっと入居した義母が、昔、世話になったスタッフに「ご無沙汰(ぶさた)です」とあいさつする姿を見て、陽子さんは安堵(あんど)した。

 野木町の山本裕子さん(51)=仮名=も、義母(91)の住民票を移して、「森の舎」入居がかなった。「私や姉だと、力任せに母を立たせる所を、ここでは、母が『よいしょ』と立とうとするときに支えてくれる。義母の時間の流れに合わせていただける」と満足そう。

 裕子さん一家は野木町民だが、義母は埼玉県に住む次女と同居していた。次女の病気を機に、森の舎に隣接する介護老人保健施設に入所。住民票は埼玉県のまま、入退所を繰り返した。

 「家に戻ると座ったままで足腰が弱り、夜中に何度も目を覚ましてトイレに行く」といった状態が続き、森の舎入居を決めた。入居には町民として介護保険料の納付実績が求められるため、住民票を移して2カ月待った。

                  ◇

 特別養護老人ホームや老健には、所在地に住民票がなくても入れる。入所後に移す人が多いが、介護保険給付を負担するのは、もといた市町村。施設の多い市町村で給付が増え、介護保険財政を圧迫するのを避けるためだ。しかし、グループホームにはこうした仕組みはない。入居は原則、市町村民に限られている。

 しかし、認知症グループホームの事業所数は、地域の偏りが大きい=表。東京都では開設に補助金を出すなど整備を急いでいるが、整備率は全国で最低。

 一方、整備率の高い所では介護保険の給付がふくらむ。青森県八戸市では、グループホーム急増で、その給付と1割負担を合わせた費用額が、12年10月の462万円から16年10月には1億1231万円に。開設自粛を事業者に要請した。特養なども含めた施設整備率が高く、八戸市の介護保険料も4800円と全国平均の4090円より高い。

 地域密着型への移行は、「住み慣れた地域での生活を継続する」ため。家族や知人と行き来がしやすく、認知症でも、地域の理解を得て外出しやすい。だからこそ、住民に必要なサービス量を、市町村が計画的に整備することが求められている。

 友志会の正岡太郎理事長は「グループホームの数は地域によってばらつきがある。栃木県は数が少なく、しかも、宇都宮市周辺に集中している。実際の生活圏に合わせた利用ができれば」と話す。

                 ◇

 グループホーム事情に詳しい早川浩士・ハヤカワプランニング代表は「日本にグループホームが導入されて10年以上たつが、いまだに1カ所もない市がある。この間に入居者は高齢化が進み、身体介助や医療の必要が高まっているが、訪問看護ステーションなどと連携できない事業所もある」と、自治体間格差を指摘する。

 認知症高齢者は増加が見込まれ、グループホームのニーズは高いが、偏りの解消には時間がかかりそうだ。

 東北福祉大学の高橋誠一教授は「独居や日中独居の不安を解消するため、グループホームを『住宅』として必要とする人もいるのが実情だ。数を増やしても、本当に認知症で困っている人が入れない事態も起こりうる。まず、利用者のニーズを整理して、『住宅』が必要な人には、介護保険外の在宅支援を増やすなど、ほかの受け皿を整備すべきだ」と話している。

(2008/08/05)