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グループホームはだれのため?(下) 



 ■軽減制度なく“高根の花” 

 「グループホームは高根の花」。こんな声が、認知症のお年寄りを介護する家族の間で聞かれます。入居に必要な料金が、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などに比べて高く、収入が少ないと、入居できないのが現実。特養や老健には低所得者への負担軽減制度があるのに、認知症高齢者グループホームにはないからです。(寺田理恵)

 横浜市の公務員、戸田公一さん(55)=仮名=は今年7月、静岡県に住む叔母(77)がグループホームに入る際の保証人になった。驚いたのは、利用料が介護老人保健施設(老健)の倍以上かかること。

 「叔母が2カ月過ごした老健は月6万円だったのに、今のグループホームは月14万円近い。叔母は蓄えを取り崩さなければならないようです。老健の方が新しく、設備も整っているのに、どうしてこんなに差があるんでしょう」と首をかしげる。

 戸田さんの叔母は、ずっと独身で、収入はささやかな年金だけ。5年ほど会っていなかったが、昨秋、叔母のケアマネジャーから戸田さんに連絡があった。聞けば「施設への入所を希望しているので、保証人になってほしい」とのこと。久しぶりに会うと、叔母はすっかり足腰が弱り、訪問を約束した日時も覚えていなかった。

 ケアマネの話では、叔母は要介護2で認知症の症状があり、1人暮らしが困難。しかし、要介護度が軽いので、すぐに入れる施設はないという。

 ケアマネの手配で、叔母は今年5月、年金で賄える老健に入所できた。費用は、介護保険の1割負担が3万円、食費2万円と居住費1万円を加えても月6万円。老健側の説明では「所得が低いので、食費と居住費が軽減された」とのことだった。

 面会に訪れた戸田さんに、叔母は「ここは快適。ずっといたい」と話し、会話もしっかりしてきた。元気を取り戻した叔母は、6月の要介護認定で要介護2から要介護1に。喜んだのもつかの間、老健側から「長期入所する施設ではない」と退所を求められ、戸田さんはあわててグループホームを探した。

 空き部屋のあったグループホームの費用は、介護保険の1割負担2万5000円に、家賃6万円と食費5万3000円を加えて13万8000円。戸田さんは「ほかのグループホームに比べて安い方。お年寄りが和気藹々(あいあい)と暮らしていて、雰囲気がよかったので契約しました。叔母の自宅に近く、知人たちとも行き来がしやすくなります。払えなくなったら、私が援助します」と話す。

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 戸田さんの叔母が老健に月6万円で入れたのは、老健など介護保険施設には、所得が低ければ居住費・食費が軽減される仕組みがあるからだ。

 老健の平均的な居住費・食費は5万2000〜10万2000円。世帯全員が市町村民税非課税なら、負担額はさらに低くなり、差額は介護保険から施設に支給される。平成17年10月、居住費・食費が利用者負担になったときに導入された仕組みだ。

 戸田さんの叔母は年金が少なく、「利用者負担第3段階」。運良く4人部屋(多床室)に入れて、居住費・食費が安かった。

 負担軽減の対象となるには、本人だけでなく、世帯全員の所得が問われる。このため、介護保険施設に親を入れる際、住民票を分けて、親を非課税世帯にする「世帯分離」で軽減を受ける家族もある。厚生労働省によると、軽減を受ける入所者は、老健で約5割、特別養護老人ホームでは約8割にのぼり、その多くを第2段階の人が占める。

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 しかし、グループホームには、こうした仕組みはない。介護保険では、老健などが施設扱いなのに対して、グループホームは居住を提供しながら、自宅と同じ扱いだからだ。

 グループホームの「家賃」はまちまち。厚労省の調査結果によると、月1万円未満から20万円以上まで幅広い。入居にかかる費用総額は、介護保険の自己負担分込みで平均月額11万円を超す。収入が国民年金だけでは入れない額だ。

 地価の高い大都市圏などでは、もっと高い。「安くても、月15万円以上かかるので入れない」「ケアには満足しているが月25万円」といった声が聞かれる。例えば、東京都千代田区は独自に、区立グループホームの居室利用料に助成し、入居者負担を抑えたものの、月約20万円かかる。

 池田省三・龍谷大学教授は「軽減制度が施設にあってグループホームにないのは、おかしい。低所得者の負担軽減は本来、保険ではなく、社会福祉として税金で行うこと。現在、各制度でバラバラに行われている低所得者対策を、横断的な仕組みに再構築する必要がある」と批判する。その上で「グループホームは、扱いやすい人を選んで入れる事業所が多く、問題がある。まじめに取り組む事業所ほど、人員配置が厚く、人件費がかさむ。よい事業所を報酬面で評価する客観的な基準が必要だ」と話している。

(2008/08/06)