産経新聞社

ゆうゆうLife

「介護と仕事」どちらかを選べない(中)

池園芙美子さん


「お体の調子はいかがですか?」。サポーター(左)の問いかけに答える池園さんの実母(右)=北九州市の池園さんの自宅


 ■留守中も“サポート”

 介護保険の在宅サービスのほか、地域の有償ボランティアによる助け合いサービス(住民参加型在宅福祉サービス)を利用することで、仕事と介護を乗り切れる場合があります。家をあける間、ボランティアが要介護者の話し相手になったり、病院内で付き添いをしたり、介護保険の在宅サービスの対象でないことを、手ごろな値段でしてもらえます。しかし、こうしたサービスは地域によって充実の度合いがさまざま。全国どこでも利用できることが求められています。(清水麻子)

 「サポーターさんに来ていただいている間は、本当に安心して働けます」

 北九州市の池園芙美子さん(62)は、自宅で中高校生向けの英語塾を運営しながら認知症の実母(83)の世話もする。母は要介護度4で、池園さんと2人暮らしだ。

 「サポーターさん」とは、要介護者を見守ったり、話し相手になってくれる有償ボランティアのこと。北九州市の委託を受け、市社会福祉協議会が介護を必要とする高齢者宅に派遣してくれる。午前9時から午後8時まで、原則6時間以内で利用でき、1時間半で500円。民間サービスに比べ、利用者負担が軽いのが特徴だ。

 自宅で行う私塾とはいえ、池園さんの仕事はフルタイム勤務並み。塾は毎日午後4時から午後10時まで、昼間は問題作りやテスト準備などにあてる。土曜日も午前、午後と授業を行い、中間や期末テスト前になると、休みはない。

 家事や母親を病院に連れて行くなどの“仕事”もある。母親は不安感が強く、ひとりにできないので、池園さんは、介護保険と助け合いサービスを組み合わせ、スケジュールをやりくりしている。デイサービスに月、火、木、金の週4回、通ってもらい、母が帰宅した夕方以降はヘルパーとサポーターに来てもらう。

 ヘルパーには夕方の食事介助などの介護を、サポーターには、ヘルパーが帰った後、会話をしながら母を見守っていてもらう。サポーターは原則、介護はしないが、弁当持参で一緒に食べてもらったり、服薬を促すなどの対応をしてもらえるという。介護にかかる費用は、介護保険で限度額いっぱい使うサービスの1割負担分が約3万円、限度額を超えて利用する10割負担分が約5万円、助け合いサービスが約2万円で、月に計10万円という。

 「費用はかさみますが、介護を支えてくれる方がたくさんいるおかげで、仕事が続けられ、そのことで、自分もいい状態に保てる。毎日が感謝の日々です」と池園さんは話す。

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 ■助け合いサービス 料金や柔軟さも魅力

 仕事と介護を同時にする人にとって気がかりなのは、デイサービスやヘルパーなどの在宅サービスが途切れる“空白”時間だ。池園さんのように、介護保険の在宅サービスの合間に、助け合いサービスを組み込んで、要介護者のスケジュールを立てられれば安心して働ける。

 助け合いサービスの魅力の一つは、利用料が、補助金などがあって、比較的安く設定されている点だ。全国社会福祉協議会(東京都)地域福祉部の高橋良太さんによると、費用は1時間あたり平均720円。事業所に保険外サービスを頼むと、「バラツキはあるが、おおむね1時間2000円台」(ある介護保険事業所)とされる。

 助け合いサービスを、1時間200円で月に80時間まで利用できる山形県鶴岡市では、利用者のうち半数が会社員などの働く世帯。市の委託を受けサービスを提供する事業所には、「昼食をちゃんととっているか、などの不安が解消される」との声が寄せられているという。

 一方、働く介護者はこうしたサービスの“柔軟さ”にも助けられる。介護保険の在宅サービスでは、病院内の介助や見守りなど、家族が望んでも「できないこと」がある。しかし、助け合いサービスは基本は自費なので、柔軟に対応してもらえる。

 高橋さんによると、社協やNPO法人などの介護保険事業所がサービスを行っているところもあり、「ここまでは介護保険で」「ここからは助け合いサービスで」と区別すれば、なじみのヘルパー事業所が対応してくれるケースもあるという。

 助け合いのニーズはさらに広がりそうだが、高橋さんによると、サービス提供団体は平成14年以降は横ばいで、18年度現在で全国約2200にとどまる。財政難で自治体の補助が限られるなか、増加は難しそうだ。

 日本社会事業大学の大橋謙策学長は「自治体や社会福祉協議会は仕事と介護を両立する時代を視野に入れ、サービスを提供してほしい。財源がないのはどこも同じだが、社協は地域企業から寄付金を募るとか、利用者が保険料を出し合ってミニ共済を作るなど、新たな発想でサービス拡大をしていくべきでしょう」と指摘している。

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 助け合いサービスに関する問い合わせは、居住地の社会福祉協議会へ。

(2008/10/07)