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ゆうゆうLife

【ゆうゆうLife】編集部から 聞こえぬ声に悩む介護者

 私事だが、わが家の子供たち2人は1日の多くを保育園で過ごし、週末になると風邪をひく。普段、食事や睡眠に気を配っているつもりでも、ひんぱんに風邪をひくのを見ると、私が働いているせいではないか、と心が揺れる。働く母親は一般的になったとはいえ、時に罪悪感にさいなまれることはある。

 一方、働く介護者は働く母親に比べ、まだ少数派。重度の要介護者の体調管理も子供より気を使うだろう。そんな家族らが、仕事を続ける苦労はいかばかりかと思う。

 「浴風会ケアスクール」では認知症高齢者の家族会も開かれる。校長の服部安子さんは、介護と仕事が両立できず、仕事を辞めようとする女性たちの悩みを聞いてきた。彼女たちの多くは「女性は介護に専念すべき」という日本の家族観に苦しめられているという。「家族が大変な時に仕事なんて」という周囲の声に傷つき、「介護に専念しないのは冷たいのでは」と、“聞こえない声”に苦しむ。そして、長く持ち続けた仕事への信念も揺らいでしまうのだとか。

 服部さんはそんな女性たちに「固定観念にとらわれず、仕事を辞めないで」とアドバイスしてきた。「仕事と介護の両方を乗り切った女性たちは、要介護者の葬儀の際も『自分なりにやった』という誇りで表情が輝いている」という。「介護も仕事も」の道のりはたやすくない。ただ、もう少し、肩肘張らずにできる社会にできないだろうか。(清水麻子)

(2008/10/10)