産経新聞社

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続ひとりでも自宅で(上)住民出資で店舗開設

魚のフライやコロッケなどを積んで、高齢者宅を回る「なんでもや」の佐久間憲治店長(右)。安否確認も兼ねている


地区住民が共同出資して開店した「大張物産センターなんでもや」。向かいに公民館や郵便局がある=いずれも宮城県丸森町


 年をとると、荷物を持って歩くのは大きな負担です。ところが、商店街の衰退と相次ぐバス路線の廃止などで、買い物や通院に困る高齢者が増え、生活上の問題が表面化してきました。ひとり暮らしや高齢の夫婦は、どうすれば自宅で住み続けられるのか。初回は買い物を取り上げます。(寺田理恵)

 10月初旬、稲刈り時期の宮城県丸森町の大張地区。稲束を天日干しする「はせがけ」が今も見られるのは、棚田に大型の農機具を入れにくいからという。阿武隈川沿いの地形は険しく、急な坂の上に農家が点在する。

 軽トラックの運転席から、腰の曲がった男性が降りてきた。同地区唯一の日用品店「大張物産センターなんでもや」で食品などを買うためだ。80歳代で妻と2人暮らし。山道からトラックごと落ちたこともあるが、標高の高い土地に住んでおり、車で来なければ帰れなくなるそうだ。

 バイクに乗った男性(83)は、4キロ先の自宅から、たばこを買いに来た。「近所のたばこ屋が閉店したので、ここまで来ます。自分たちで出資した店だから」と話す。

 地区では、JA購買部と個人商店が次々と閉店。「急な不幸があっても、のし紙1枚買えない」状態に困った住民は5年前、住民が必要なものは何でも置く「なんでもや」をJAの空き店舗にオープンさせた。扱うのは洗剤、文具などの日用品や、乳製品、豆腐、めん類、地場産品など。佐久間憲治店長や従業員らは最低賃金ぎりぎりの時給630円で働くボランティアだ。

 開店までの経緯を、佐久間店長は「大張地区のことは、住民で何とかしたいと、商工会大張支部が中心になって開店にこぎ着けました。商工会員らが出資し、住民200世帯も2000円ずつ協力金を負担して、店舗の改装には電気工事店、水道工事店、工務店が協力しました」と話す。住民も「自分たちの店」を積極的に利用する。

 同店からスーパーのある町の中心部や隣接する角田市、白石市へは車で約15分。運転できれば何でもないが、同地区では約300世帯1050人のうち、42%が60歳以上。独居や高齢者世帯も多く、店までの道のりも困難だ。そのため、佐久間店長は車に魚のフライやコロッケなどの総菜を積んで移動販売に訪れる。「変わりない?」「天気いいね」と声をかけるのは、安否確認のためもある。

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 買い物に困るのは、過疎地の高齢者に限らない。都市部でも、高齢化でシャッター街と化した商店街は多い。昭和40年代にできた団地にはエレベーターがなく、高齢者は階段の上り下りに苦労する。

 千葉市北部の湾岸に広がる海浜ニュータウン。JR稲毛海岸駅に近い高浜団地に住む女性(79)は要介護3。「(自宅は)3階だから、階段を下りるときは手すりにつかまって。上りは一段一段ゆっくり上ります。ヘルパーさんは週5回ですが、時間が短くなり、1時間半しかいない。買い物をお願いしたら、それで終わってしまうので頼めません」

 生活上の課題が表面化した背景には、介護保険の家事援助型サービスの削減もある。買い物や調理、掃除などをヘルパーに頼みにくくなっている。

 女性はつえを頼りにスーパーへ行く。しかし、荷物を持って階段を上がれないため、高洲・高浜地区で活動するNPO「ちば地域再生リサーチ」が行う買い物商品お届けサービスで運んでもらう。

 1回50円。当初200円だったが、利用が少なく、値下げされた。採算が取れない事業には、NPOが助成金やコンサルティング業で得た収入をあてる。

 同NPOは地区再生を目指し、千葉大学の教員や学生らが組織した。お届けサービスのほか、リタイアした住民の専門技術を生かした団地の部屋のリフォーム、地域の小学生との総合学習など、世代を超え住民組織の活性化を図る。

 高洲・高浜地区は開発から35年が過ぎ、今後も急速な高齢化が予測される。同NPOによると、平成17年に1万8000世帯のうち、85歳以上の単身世帯が30世帯。65歳以上だと625世帯。2キロ四方に満たない同地区でお届けサービスを定期利用する人が50人もいる。事務局長の鈴木雅之・千葉大学助教は「新しい世代が入ってこなければ、活動の担い手が育たない。子育て支援も含めた街づくりが必要だ」と話す。

 大張地区も高洲・高浜地区も住民の専門技術を生かす場を作っている。

 NPOの支援や、商店街の買い物代行などのサービスは増えているが、住民が参加できる組織をどう作るかが重要といえそうだ。

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 ■近隣商店利用の努力を

 『買物難民−もうひとつの高齢者問題』の著者、杉田聡・帯広畜産大学教授の話

 買い物をめぐる環境はこの20年間に劇的に変化し、郊外の大規模店などに車で行くことが普通になった。高齢者が日用品や食料品の購入に困る現象は、全国どの地域でも起きている。現在ある商店を維持するには、価格が少し高くても近くの商店で買うなど、自分の問題として行動することが必要だ。

 問題解消には、「高齢者を商店に連れて行く」「商店が高齢者宅に来る」「高齢者宅の近くに商店を増やす」などの方法を追求すべきだ。各地で努力されており、例えば、福島県大玉村では、役所の職員がボランティア休暇に高齢者を車で近くの街まで運ぶ事業を行っている。役所がかかわることで高齢者も安心して利用できる。こうした取り組みが広がってほしい。

(2008/10/20)