産経新聞社

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続ひとりでも自宅で(下)

ごみ出しが困難な高齢者を対象に、玄関先まで取りに行く戸別収集。安否確認も兼ねている=千葉県野田市


 ■自治体が玄関先で対応

 足腰が弱ったのに、家族の手助けが得られず、集積場所までごみを出せないケースが増えています。こうした人を対象に、安否確認を兼ね、玄関先などでごみを回収する自治体が増えました。分別が複雑になり、室内から出せない高齢者もいます。放置すれば、ごみ屋敷となりかねません。(寺田理恵)

 通常の収集ルートを走っていた収集車が、幹線道路沿いの民家の前で止まった。職員は慣れた手つきで門扉を開け、軒下の青いごみバケツから、ごみ袋を取り出して運んだ。道路に面した窓からは、白髪の女性が頭を下げていた。

 ごみ出しが困難な高齢者・障害者を対象に、千葉県野田市は、玄関先での戸別収集を行っている。利用者は75〜85歳がほとんどで、要介護1〜3が中心。3年前の100世帯から190世帯に増えた。

 集積所は15戸に約1カ所。各戸からの距離は短いが、高齢者からは「家の前が幹線道路で、横断歩道まで遠回りしなければならない」「アパートの2階に住んでいて、階段の上り下りができない。買い物は親族がしてくれるけど、ごみ出しまでは頼めない」などの声がもれる。

 ごみ出しができなくなると、いずれ深刻な事態を引き起こす。家の中にごみがたまり、人をよべなくなると、高齢者は閉じこもり、孤立しがちだ。悪臭が生じ、害虫の繁殖などで伝染病にもつながりかねない。早い段階での対処が必要だ。

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 収集車は区画整理された住宅街に入った。集積所にまとめられた袋を、職員が手早く回収する。

 一軒の家の前で職員の動きが止まった。戸別収集の対象者宅だが、ごみ袋が、いつものガレージ付近に見当たらないからだ。安否確認のため、インターホンを押すと、しばらくして女性が出てきた。

 応答がなければ清掃工場の事務所をに通じて、家族などに連絡する。職員は「これまで、出し忘れや入院による不在はあったが、救急対応が必要な事例は起きていない」という。

 野田市で戸別収集が始まったのは平成16年8月。「ごみ出しが大変」という声を受け、市が高齢者や障害者だけで暮らす約2700世帯を、アンケートや聞き取り調査で必要度の高い91世帯に絞り込んだ。新たな申請も、訪問調査で判断する。同市清掃第一課の小室照之課長は「昔から資源ごみの分別は自治会で行われていたため、自治会経由で高齢者がごみ出しに困っているとの情報が届きやすかった」と話す。

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 野田市のように戸別収集を行う自治体が増える一方、住民ボランティアに高齢者宅のごみ出しを依頼する自治体もある。

 介護・福祉職などを対象に研修を行うケアタウン総合研究所(東京)の高室成幸代表は「独居高齢者には地域の見守りが必要だと言われるが、具体的に何をすればよいのか分かりづらい。ごみ出しなら、『ごみを出しましょうか』と気軽に声をかけやすく、地域福祉活動の手がかりとなる。高齢者のためと考えず、街づくりとして意識されることが重要」と指摘している。

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 ■分別困難な高齢者

 ごみの分別が複雑になっているが、介護保険の訪問ヘルパーの利用が難しい場合、だれが分別するかが課題だ。

 熊本県水俣市は16年から分別が困難な高齢者などに「ご免除シール」の配布を始めた。14年に生ごみと可燃ごみの分別をスタート。未分別の袋を集積所に残すと、「生ごみから悪臭がする」など苦情が出た。

 「認知症状がなくても、分別できなくなる」と指摘するのは、ごみ屋敷の片づけを行う業者「あんしんネット」(東京)の石見良教さん。「87歳のある独居男性は、妻を亡くして家事を始めたが上手くいかず、2トントラック10台分のごみがたまった。大量のゴキブリが繁殖していた。だれにでも起こりうる問題です」と話す。

 小川栄二・立命館大学教授は「ごみ出しができない原因には、高齢者の『生活意欲の後退』もある。社会的地位の喪失や配偶者の死亡などがきっかけで、体を清潔に保ったり、食事を満足に取ることができなくなる。部屋の中も散らかる。孤立と深く関係しており、ヘルパーの訪問が意欲向上に効果がある。しかし、軽度者への家事援助は削減されており、福祉予算で解決を図るにも財源に限りがある」とする。

 対策について「行政が片づけを肩代わりするのではなく、地域の見守りや助け合いが重要だ。ただ、善意に頼る方法では広がらない。市町村長の委嘱を受けて独居高齢者を訪問する、昔からの『老人福祉員』『友愛訪問員』を再評価するなど、行政がかかわることによって仕組みにする必要がある」と話している。

(2008/10/22)