産経新聞社

ゆうゆうLife

訪問介護事業所 生き残りをかけて(下)

飯田津夜子さん。後方は「たすけあいゆい」のヘルパー=横浜市南区


 ■サービス多様化で収支好転

 訪問介護だけでは経営が苦しくても、デイサービスを始めるなどでサービスを多様化すれば、収支が好転する場合もあるようです。地域で困っている人を助けようと、さまざまな福祉サービスを展開してきた結果、訪問介護主体だった小さなNPO法人が、年間4億7000万円を生む社会福祉法人にまで成長したところも。成功の秘訣(ひけつ)を探ります。(清水麻子)

 「『ゆいさん』にはずいぶん助けられていますよ」

 横浜市南区の自宅で、全身の関節がこわばって痛む全身性エリテマトーデスという難病と闘いながら、ダウン症の長女(30)を育てる主婦、飯田津夜子さん(64)は笑顔を見せた。

 「ゆいさん」とは、横浜市南区で訪問介護事業所などを運営する社会福祉法人「たすけあいゆい」のこと。飯田さんは毎週木曜にはヘルパーを派遣してもらい、家の掃除を、土曜日には長女の散歩に付き添うヘルパーを派遣してもらっている。

 飯田さんは体調が良いときは何でも1人でするが、痛み止めが効かず、寝込むほど辛いときもあるという。「食事作りや洗濯、掃除など、しなければいけないことは多いのですが、一方で常に手助けが必要な娘の世話もあり、助けてほしいという心境で区に相談に行き、紹介されたのが、出合いでした」と振り返る。

 「たすけあいゆい」は、国が難病ヘルパー制度を始めた平成9年から、市の委託を受けて難病患者にヘルパーサービスを実施している。

 「つきあいはもう10年以上ですが、また助けてもらうかも」と飯田さん。実は、春には初孫が生まれるという。「体調が悪くて、私が手伝えない日は、ゆいさんの産後ヘルパー派遣サービスに頼もうと思って…」。飯田さんと「ゆいさん」との二人三脚は今後も続きそうだ。

 ■困っていればどこへでも

 「たすけあいゆい」(浜田静江理事長)は平成元年、生活クラブ生協の活動を通じて知り合った主婦9人が始めた。

 地域で困っている高齢者や障害者、難病患者や母子らに、有償ボランティアを派遣する助け合い活動が中心だったが、利用者の中には、たんの吸引など、医療ケアが必要な人も。そこで11年にNPO法人になり、NPOとしてはあまり例のない訪問看護ステーションを立ち上げた。翌年の介護保険法施行と同時に訪問看護、訪問介護、デイサービス事業所の指定を受けた。

 14年には、支え手が少ない精神障害者の訪問介護事業所の指定を受け、障害者の支援費ホームヘルプ事業にも乗り出した。

 浜田理事長は「困っている、という声を聞けば、対象や事例を問わず、どこへでも飛んでいった。そして、利用料を安くするため、後から公的制度をはり付けていった。サービスが多様化し、公費収入が増え、結果的に売り上げが伸びました」と話す。

 14年度にはNPO法人としては破格の4億円以上の収入を上げ、法人税が年間3000万円を超えたため、翌年、社会福祉法人を設立した。収益を上げられた理由について浜田理事長は「利用者や行政に信頼され、多様なサービスを展開できたことが大きかった」と分析する。

 「自宅を改築するので、1階を提供したい」という利用者の声に応えて17年に始めた2つ目のデイは、19年度は総売り上げの2割を占める“稼ぎ頭”に。また、横浜市からは、夫から暴力を受けた妻子が暮らす施設の運営や母子家庭などへのホームヘルプなど8つの事業を任され、売り上げの3割を占める。

 介護保険の訪問介護事業の売上額は、一般の訪問介護事業所同様に、15年度から19年度までに約4割減ったが、多様な福祉サービスを展開してきたため痛手は小さく、同年の総売上額は4億7000万円を超えた。今後は、がん末期や難病など、医療ニーズの高い人が健康管理を受けながら、1日を過ごせる療養通所介護などにも、サービスを拡大したい意向だ。

                   ◇

 日本社会事業大学の藤井賢一郎准教授(福祉経営) 「助け合いの発想で介護保険サービスに参入したNPO法人は、多様な事業展開に踏み出せない所が一般的だが、生活援助を中心とした訪問介護を請け負うだけでは、今後、生き残れないだろう。わが国は、高齢化の割に国民負担率(国民所得に占める税と社会保険料の割合)が低く、介護保険は中重度対象にシフトしていくしかない。介護報酬が、在宅で最期まで暮らしたい人を、本気で支える事業所に手厚くなるのは自然の流れだ。今後、訪問介護事業所がほかのサービスを展開するなら、より収益が上げやすく、ニーズが高い小規模の認知症デイなどを展開するのも一つの手だ。在宅介護を担う経営者に必要な要素は(1)在宅介護をとことん支えるという明確な理念(2)サービスを多様化させる経営実践力(3)介護職員の専門性を高める人材育成力−の3つ。善意で訪問介護を始めた経営者には、残念ながら経営能力が十分でなく、ヘルパーらの給与を低く設定せざるを得ない傾向がある。しかし、それでは良いサービスは提供できないし、結果として利用者に選ばれない」

(2008/12/18)