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手遅れになる前に…成年後見制度(中)


 ■申立費用が利用の壁に

 「成年後見制度」の申立費用は、本人ではなく、原則、申立人が負担します。費用には、5万円とも10万円ともいわれる鑑定費用も含まれ、思いのほか、お金がかかるケースも。子供や兄弟姉妹ならまだしも、交わりが薄いと、申し立てに消極的になる親族もいるようです。専門家は「費用負担を気にせず、制度を利用できるようにすることが緊急の課題」と指摘します。(竹中文)

 「80歳で、要介護5の伯母が老人ホームで暮らし続けられるよう、成年後見制度を利用しました」。横浜市に住む会社員、真田誠さん(49)=仮名=は、こう話す。

 真田さんの伯母はアルツハイマー型認知症になり、平成17年に生活費など、月約25万円が必要となる神奈川県の介護付き有料老人ホームに入所した。しかし、その費用を工面していた伯父は昨年12月、心臓病で帰らぬ人になった。

 伯母夫婦には子供がいない。真田さんは、伯父が生前「妻を頼む」と言い残していたことを思いだし、伯母の預金通帳から老人ホームの入所費用を支払うため、自身を成年後見人の候補者とする申し立てを横浜家裁で行った。

 通常、後見開始の申し立てには、申立手数料(収入印紙)や登記手数料(登記印紙)、連絡用の郵便切手、鑑定費用などが必要で、原則、申立人が負担する。制度を必要としているのは、申立人とみなされるためだ。申立費用のなかで特に高いのが、本人の判断能力の程度を診断する医師の鑑定費用だ。

 ただ、真田さんの伯母の場合、申し立て時に提出する医師の診断書に、認知症の進み具合が克明に記されていたことなどから、横浜家裁から「鑑定の必要なし」と判断された。横浜家裁は「医師の診断書や主治医の意見、関係機関での心理判定の結果などを総合的に判断し、鑑定を省略する場合もあるが、鑑定の必要がない場合を、具体的に定めているわけではない」という。

 鑑定費用はかからなかったが、真田さんは家裁に提出する資料作成を行政書士に依頼したため、約10万円かかった。

 今年6月、真田さんは後見人選任の通知を受けた。「申し立てにかかった費用は思ったより高額でしたが、伯父や伯母には世話になったので、恩返しができた気がします。ただ、もっと疎遠な親族で申し立てが必要になった場合は、負担することに躊躇(ちゅうちょ)すると思います」と話している。

 ■診断書などで鑑定省略も

 成年後見制度の申し立てでは、費用が壁になるケースがあるようだ。

 申し立てができるのは、本人、配偶者と四親等内の親族、検察官、市区町村長など。4親等内の親族となると、おじやおば、いとこ、おいやめい、その子供まで入る。

 NPO法人「神奈川成年後見サポートセンター」理事の吉田導子(みちこ)さんは「4親等内でも遠くなると、申立費用を負担に感じる親族は少なくありません」と指摘する。

 吉田さんは、1人暮らしの高齢者について、近隣住民から人を介し「徘徊(はいかい)など認知症状もあり、判断能力も心配だ。なんとかしてあげられないのか」との情報が寄せられた経験がある。当時を振り返り、「姪御(めいご)さんに申し立てをお願いしたのですが、『申立費用が高額だ』と拒否されました」と唇をかむ。

 申立費用の中でも、特に高いのが、鑑定費用。吉田さんは「高額な鑑定費用を負担して申し立てるのは、子や兄弟姉妹のように、本人と金銭的にも密接なかかわりがある方が多い」と説明する。

 最高裁によると、19年度に本人との関係で最も多かった申立人は「本人の子」で38・2%。次いで、兄弟姉妹(15・6%)、配偶者、親、子、兄弟姉妹を除く4親等内の親族(14・2%)となる。

 こうした費用については、国や市区町村などが助成する場合もある。

 吉田さんは「費用を申立人が負担せずに済むように、支援事業を広げることが重要です。また、後見開始の申し立てをする場合、医師に認知症の度合いや判断能力の程度を、診断書に詳細に、客観的に書いてもらえば、鑑定が省略される可能性があります」と話している。

(2008/12/23)