産経新聞社

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どうなる!?要介護認定(上)

要介護度を決める認定の訪問調査で、体の状態をチェックする認定調査員=東京都西東京市



 ■基本調査項目が14項目減

 要介護認定が4月から新しくなります。認定調査員が訪問して行う基本調査の項目が14項目減るのが、大きな違い。これまでの認定調査には、どのような問題点があったのでしょうか。都内で行われた認定調査に同行し、課題を探りました。(竹中文)

 「電話の利用ができますか」

 東京都西東京市に住む川中太一さん(93)=仮名=は1月、介護保険の認定調査を受けた。認定調査員が質問すると、太一さんに代わって、二女、月子さん(56)=仮名=が「できます」と答えた。

 太一さんは1人暮らしだったが、昨年6月に肺炎になり、救急車で搬送された。食事もできず、7月からは流動栄養を直接胃に入れる「胃ろう」を開始。入院中の9月半ばに要介護認定を受けたら、要介護4だった。

 退院後は月子さん家族と同居し、介護保険を利用して訪問入浴や訪問看護、訪問介護のサービスを受けている。

 この日は太一さんにとって、2度目の認定調査。太一さんは起きあがったり、両足で立ったりできず、寝て過ごすことが多い。月子さんの「電話の利用ができる」との答えを聞いて、認定調査員は「どんなふうに電話を利用するのですか」と質問を変えた。

 月子さんが「自分で受話器は持てませんし、相手に思うように言葉も伝えられません。でも、受話器を耳にあててやれば、声を聞くことはできますし、簡単な受け答えはできます」と回答すると、認定調査員は「(1)自立」「(2)一部介助」「(3)全介助」のから、(3)を選んでチェックした。

 「火の不始末」や「不潔な行為」「食べられないものを口に入れる行為」の有無を問う質問では、月子さんは「ない」と答えながら、「手足が不自由なので、そもそも、そうした行為そのものができません」と補足。認定調査員は特記事項に詳細を記した。

 認定調査を終えた月子さんは「最初に認定調査員に聞かれたときは、質問の意味がよく分からないまま答えていました。それでも、調査員が具体的な質問に変えてくれたり、詳細を聞いてくれたので、父の実態をきちんと伝えることができました」と調査を振り返った。

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 ■調査員に正確な状況伝達を

 要介護度は、まず認定調査員が「基本調査」を行う。それがコンピューターにかけられ、1次判定が出される。その後、2次判定として、医師やケアマネジャーらが「介護認定審査会」で主治医意見書や特記事項などをもとに要介護度を決定する。

 基本調査から外れる14項目には、認知症に関する項目も含まれている。厚生労働省が認定調査の変更に踏み切ったのは、現場の負担減が目的。しかし、川中さんの認定を行った調査員は「項目が減っても、負担はさほど変わらない。むしろ項目が減り、実態を把握できなくなるのではないかと不安」と心配そうだ。

 厚労省老人保健課は「除外したのはもともと、(認定調査員の)判断が難しい項目や、削除しても1次判定では影響のない項目」とする。例えば、川中さんも聞かれた「火の不始末」。火の不始末をしない人も、川中さんのように火を使えないほど身体状況が悪い人も、同じ「ない」になってしまい、調査員が特記事項を記さなければならなかった。

 厚労省は現場の不安に対して「基本調査の項目を減らしても、主治医意見書で代替できる」とする。主治医意見書をもとに2次判定などで“補正”できるとの立場だ。しかし、要介護認定に携わる現場からは、疑問の声が上がる。

 都市部の自治体で「介護認定審査会」に出席するある委員は「主治医意見書には、利用者の普段の様子があまり把握されていなかったり、数カ月前に診察した情報で書いたものや、『前回と同じ』とだけ記したものもある」と明かす。

 国際高齢者医療研究所(兵庫県芦屋市)の所長で、医師の岡本祐三さんも、医師の意見書だけでは限界があるとの立場だ。「医師の専門分野や関心度により、意見書の書き方には差異が生じる。認知症の診断はどの医師でもできるわけではないし、すべての医師が客観的に適正な意見書を書くことを期待するのは難しいだろう」と指摘する。

 では、利用者側にできることはあるのだろうか−。社団法人「認知症の人と家族の会」(本部・京都市)の高見国生・代表理事は「認知症の人は、症状があることを認めたがらない場合もある。家族は『認知症ではないか』と、気付いた原因を詳細にメモして、調査員に状態を正確に伝える工夫が必要だ。調査員は家族などからも日常の様子を聞いて、実態を要介護認定に反映させてほしい」と話している。

(2009/02/11)