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どうなる!?要介護認定(中)

「要介護1」(下)から「要支援2」になった介護保険被保険者証。1カ月の利用限度額は1万6580単位(1単位は約10円)から1万400単位に減った



 ■機械判定でばらつき減らす

 「状態が悪くなったのに、介護サービスが減った」「理由が分からない」。要介護認定で「要介護1」から「要支援2」に移行した利用者から、不満や戸惑いの声が聞かれます。要介護1と要支援2を分けるのは本来、認知症の程度と、心身の状態が安定しているかどうか。これまで、2次判定にあたる「介護認定審査会」が決定していましたが、厚生労働省は「判定にばらつきがある」として、4月からコンピューター判定で行う方針です。(竹中文)

 東京都中野区の本山智さん(66)=仮名=は平成19年3月の要介護認定で要介護1だったのに、半年後の9月には要支援2になった。

 「つえなしで歩けないので買い物をヘルパーさんにお願いしていましたが、訪問介護を受ける時間が減り、頼めなくなってしまいました。体の具合は悪くなったのに、要介護認定が軽くなるのは納得できません。でも、不服を申し立てる体力と精神力がないので、判定を受け入れました」と話す。

 本山さんは16年5月に脳梗塞(こうそく)で入院。退院後も、左半身はまひしたままだ。19年には、右足が変形性股(こ)関節症になり、歩行が困難に。治療はしたものの、つえが手放せなくなり、洗濯や掃除などの家事をするのも難しくなった。1人暮らしで、手伝ってくれる家族もいないため、主治医に相談して介護保険の利用を申請した。

 最初に受けた認定調査では要介護1。「週1回、訪問介護(ヘルパーサービス)で掃除や洗濯などの支援をしてもらうようになりました。介護保険がなかったら、散らかり放題の部屋で暮らさざるを得なかったと思います」と話す。

 本山さんの足の状態は次第に悪化し、着替えなどの際にもバランスが取れなくなったが、半年後の認定では要支援2と判定された。その移行後も、股関節脱臼で2回も救急車で病院に運ばれ、さらに歩くのが困難になった。本山さんは「体調は悪化しているのに、また要介護度が軽くなるのでは…」と不安を感じている。

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 ■審査委員によって“ぶれ”

 「状態が良くならないのに、要介護から要支援に軽くなった」。市民団体「市民福祉情報オフィス・ハスカップ」などが毎年実施する電話相談には、こんな疑問が全国から寄せられる。要介護度の区分は要支援1から要介護5まであるが、中でも要支援2と要介護1の決定に不満が多い。原因は判定方法にある。

 要介護度は原則、介護に必要な時間で決まり、コンピューターによる1次判定で時間を算出する。しかし、要支援2と要介護1の必要時間はいずれも「32分以上50分未満」。これまで1次判定では区別せず、2次判定にあたる介護認定審査会で、認定調査員の記載した特記事項などをもとに判別していた。

 その基準は「認知の具合」と「状態の安定性」だが、この判断には審査委員によってぶれが生じていたようだ。厚労省老人保健課は「要介護1相当の判定方法が不明確とする意見が審査委員から寄せられた」と明かす。そこで、4月からは要支援2と要介護1もコンピューターで判定。その上で「審査会で、その妥当性を審査する」(厚労省)とする。

 ハスカップを主宰する小竹(おだけ)雅子さんは「コンピューターで判断できない詳細をチェックする審査会の役割は重要だ。要介護1と要支援2もコンピューター判定だと、審査会が形骸(けいがい)化するのでは。役割を再確認してほしい」と話す。

 日本社会事業大学専門職大学院の今井幸充(ゆきみち)・研究科長は「要介護1と要支援2の割合は、地域ごとに大きな差異があった。判別基準の『認知の具合』に、医師の意見書と認定調査員の評価が異なる事例があり、『状態の安定』の判断にも差異が生じやすいためだ。コンピューター判定の導入で標準化されると考えるが、その判定が適切かを常にチェックする必要がある」と指摘している。

(2009/02/12)