産経新聞社

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独身息子の母介護(2)働き盛り、伝わらない情報

「母親思いの優しい息子」と、近所で評判だった亀田被告の減刑を求める嘆願書が裁判所に出された。作間孝次町会長(左)は「地域に帰ったら、温かく迎えてあげたい」と話す。右は友人の斎藤さん=さいたま市内


 働き盛りの独身男性が、介護を始めた当初のストレスは相当強いとされます。思うように介護できず、カッとなって殴ってしまったり、殺害に至ることも。不足しがちなのは介護サポートの情報。しかし、仕事に専念してきた独身男性らに、どう伝えれば良いのでしょうか。(清水麻子)

 「とんでもないことをしてしまった。申し訳ないと反省するだけです」。2月、さいたま地裁で開かれた母親嘱託殺人の初公判。川口市の会社員、亀田伸一被告(45)は涙ぐみながら頭を下げた。

 亀田被告は昨年12月、介護が必要な母親=当時67歳=を殺した。独身の一人っ子。20年以上前に父が蒸発してからは、働きながら母を支えてきた。

 しかし、母は昨年春ごろから糖尿病が悪化して目がほとんど見えなくなり、8月半ばには尿が出ずらくなり、カテーテルを装着した生活を余儀なくされた。体調を悲観した母は「殺してくれ」などと言うようになった。

 亀田被告はそれまで、食事の用意、掃除、下着の用意まで母にしてもらっていたが、仕事を調整して通院に付き添い、食事を用意し、カテーテルを交換するようになった。介護保険のヘルパーや訪問看護師などは使っていなかった。

 昨年12月、感染性の腸炎にかかった母は20〜30分おきに下痢を繰り返し、亀田被告は寝ずに母のオムツ替えを続けた。初めての本格的な身体介護に戸惑い、4日後には母の首にネクタイを巻き付けた。

 中学時代からの友人、斎藤雅典さん(45)は「まじめで本当にいいやつ。何かの間違いで首を絞めてしまったように感じる。食い止められなかったことが悔やまれてならない」と、肩をふるわせた。

 今月2日に開かれた判決で裁判官は「介護が重くなって行き詰まった心情は理解できないわけではないが、犯行は短絡的と言わざるをえない」と、懲役1年6月(求刑懲役3年)の実刑を言い渡した。

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 ■初期の支援が重要 病院側相談先提供を

 在宅介護を始めた最初の数カ月が、介護者には一番苦しいという。

 「当初は逆上して怒鳴ったり、手をあげたりしたことも一度や二度ではなかった」と話すのは、介護殺人撲滅を目指すグループ「となりのかいご」の内田順夫(まさお)さん(71)だ。内田さんも、認知症の妻の介護を始めたのは会社員時代。「支え手が自分しかいない状況は、亀田さんと同じ。誰にも頼れず、仕事をしながら介護もすれば、誰でも精神的におかしくなる」と指摘する。

 さらに、女性よりも男性の方が、つまずきやすいとの指摘もある。立命館大学の津止(つどめ)正敏教授らが男性介護者約300人に行った調査では、家事スキルの有無が負担の分岐点になることが分かった。また、亀田被告の犯行の引き金になった「排泄(はいせつ)介助」への抵抗感は、夫より息子で強かった。

 平成19年度の厚生労働省の高齢者虐待の実態調査では、加害者のトップは息子で約4割。日本福祉大学の加藤悦子准教授が行った平成10〜19年の調査でも、介護殺人の加害者は息子が最多で3割を占める。

 加藤准教授は「行政に助けを求めればサービスが得られるが、独身息子は地域の保健福祉などとかかわった経験が乏しく、どこに頼ったら、どんな助けがあるのか想像すらできない。亀田氏は親の介護に直面した、ごく一般的な独身男性」とする。そのうえで、解決の糸口について「亀田氏に一番身近な存在は、母が糖尿病を診てもらっていた病院。医師や看護師が病状予測や、介護が必要になった場合の相談先を教えてあげれば、展開はまた違ったかもしれない。病院は、介護初期の男性を見つけたら、先を読んだ支援をすることが必要ではないか」と話している。

(2009/03/10)