産経新聞社

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独身息子の母介護(3)年金あてにし、虐待も

「3世代ほどさかのぼって家族図を書けば、複雑な関係が見えて、必要な支援も分かる」と話す中センター長(右から2人目)=金沢市(写真は一部修正してあります)


 必要な介護をせず、逆に母親の年金を要求したり、暴力をふるう独身息子の存在が最近、各地の行政機関などに報告されています。こうした母と息子は“密着度”が強く、近隣住民が気づいても、入り込むのは容易ではありません。しかし、放置して虐待が発生することもあり、行政の積極的なかかわりが求められています。(清水麻子)

 「お母さんがいないと、僕はだめになるよ…」。金沢市の元会社員、佐々木和子さん(80代、仮名)は、同居の次男、聡さん(50代、同)からそういわれると、「やっぱり私が守らなければ」と思ってしまう。

 聡さんは管理職として部下がいてもおかしくない年齢。しかし、これまで長続きした仕事はなかった。

 和子さんは夫の病死後、働きながら聡さんらを育てた。食事や洗濯など、家事のすべてを完璧(かんぺき)にこなしてきたが、年を取って昔通りにはできなくなった。

 要介護度は2。足腰が弱り、手助けがなければ外出が難しい。家事はヘルパーに助けてもらうが、困るのは入浴。介護保険を支給限度額一杯、使うので、入浴サービスは使えない。かといって聡さんには頼れず、久しく入っていなかった。

 一方で聡さんはパチンコなどに通い詰め、お金がなくなれば、和子さんに要求する。応じないと、怒鳴ったり殴ったり…。和子さんは昨年、こわごわ「今月はお金がない」と伝えた。すると、怒って首を絞められた。「手加減できなくなっている感じで怖い」。

 和子さんは同市の地域包括支援センター「お年寄り地域福祉支援センターとびうめ」に相談した。センターは緊急性があると判断し、親子を一時分離。その後も支援を続けている。

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 ■強い密着度…関係改善がカギ

 金沢市の地域包括支援センター「とびうめ」は、虐待などが起きる前にこうした親子を探し出し、かかわる努力を続けている。

 中恵美センター長は、こうした母子のベースには「共依存」があると指摘する。「息子が母親を頼る一方で、母親も息子が解決すべき生活費や住まいを肩代わりするのが生きがい。母親が年を取って息子を支えられなくなると、息子は虐待を引き起こしがちです」

 同センターは地域での介護予防教室で、参加住民に「働けない不満を抱える息子や、介護保険を使っていない母親など、気になる家庭に気づいたら、代わりにSOSを出してほしい」と呼びかける。

 「家庭内の問題」と考えられがちだが、こうした地道な活動で、地元の不動産業者から「家賃を滞納しているが、大丈夫か」などの連絡も入るようになった。

 支援の際はまず、共依存の背景から探る。「家族図」を作り、世代をさかのぼり関係を考える。「専門職の情報共有にも役立ち、渦中の親子にも、自分たちの関係を客観的にとらえることができる」という。

 結局、和子さんと聡さんの場合、夫(父)からの虐待があったと分かり、精神科医などにも加わってもらい、支援を提供している。

 淑徳大学の多々良紀夫(たたら・としお)教授は、「息子の介護は虐待に至るリスクが高く、先手で対策を取るべきだ。市区町村は地域包括支援センターが積極的に取り組めるよう職員を増やし、国は有効なケースワークを、社会福祉士会と共同で研究すべきだ」と指摘している。

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【用語解説】地域包括支援センター

 介護や医療、年金など、主に高齢者の生活の困り事に対応する市区町村の総合相談窓口。保健師、社会福祉士、ケアマネジャーが配置され、介護保険サービスや福祉事務所などとの連携で解決をめざす。地域のネットワーク作り、虐待対応、権利擁護、介護予防のケアプラン作りなどの業務も担う。平成20年4月末で全国に3976カ所。

(2009/03/11)