産経新聞社

ゆうゆうLife

わが街を離れず 自宅外での在宅介護(上)



 ■高齢者施設、団地が誘致

 要介護度が重くなり、介護施設に入ると、それまでの人間関係からも離れなければなりません。なじんだ生活を続ける手段の一つは、近所で介護や安否確認などの生活支援サービスが付いた高齢者住宅に住み替えること。提供事業者も、地域の口コミで利用者を集められる利点があります。初回は、エレベーターのない大規模団地の事例を紹介します。(寺田理恵)

 都市再生機構(UR)の建て替え事業が続く千葉県船橋市の高根台団地。一角で「高根台つどいの家」の建設が進む。高齢者専用賃貸住宅(高専賃)に介護事業所を組み込んだ建物で、今年6月にオープンする。

 団地自治会事務局長の小池芳子さん(68)は「動けなくなっても団地を離れずに済むよう、施設がほしかった。昭和36年に団地ができて以来、病院や保育園などを要求してつくってきました。隣の人も知らない状態から、人をつなげる努力を続け、毎年の夏祭りは40回以上。住み続けたいと願う人がほとんどです」と、期待を込める。

 団地では今も約3000世帯が暮らす。老朽化した住宅は段差が多く、旧式の背丈のある浴槽は高齢者にはつらい。一帯の高齢化率は約30%(全国平均21・5%)と高く、家事援助や病院への付き添いなど、有償ボランティアも組織されたが、追いつかない。

 「団地から移り住んだ方がいいような方がいます。孤独死につながりかねない事態も起きました」と小池さん。昨年の大みそか、88歳の男性が自宅で血を流して倒れているのを、有償ボランティアが見つけた。倒れる際に後頭部を家具にぶつけて3日が過ぎていた。

 自治会は学習会などを重ね、平成18年、高齢者施設の建設を求める要望書をURに提出。翌年、URが高齢者住宅と合わせた形で事業者を公募した。

 「つどいの家」は、有料老人ホームで実績のある「生活科学運営」や「生活クラブ」などが運営。住宅、介護、医療、食事などが確保される。住宅(高専賃・自立型)は安否確認などのサービス付きで月約13万円以上。家賃3万〜4万円台が多い団地に比べ高いが、団地住まいのまま在宅サービスも利用できる。「24時間、人のいる施設が団地にある。安心感は大きい」と小池さんは話している。

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 ■国も後押し 助成制度など整備へ

 「孤独死が月1〜2件ある」(神奈川県の公営住宅)「体が弱ると、外出できない」(埼玉県の公団住宅)

 団地住民の高齢化が問題になる中、高齢者用施設の誘致を国も後押しする。今国会に提出された高齢者居住安定確保法の改正案には、公的な賃貸の団地とセットで高齢者生活支援施設(デイサービスなど)を整備する際の助成制度などが盛り込まれた。成立すれば、国土交通相と厚労相が共同で高齢者向け賃貸住宅や老人ホームの供給目標などを定める。

 早川和男・神戸大名誉教授は「段差や狭さで車いすが使えない家が多い。介護保険の住宅改修費用では、狭さは解消されず、個人ではどうにもならない。在宅福祉を支えるハードが住宅で、ソフトが介護サービス。住宅を整備した上で、介護の人手をかけるべきだ」と話している。

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 ■不足するケア付き住宅

 群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」の火災で、無届け有料老人ホームの問題が明らかになったが、背景には高齢者施設や住宅不足がある。介護保険の要支援・要介護認定者約450万人に対し、サービス付きの住まいの定員は約131万人。介護保険施設などの新設が抑制され、在宅高齢者の増加が見込まれる。

 しかし、高齢者が安全に暮らせる住宅は少なく、高齢者の住まいで、手すり2カ所以上▽段差の解消▽車いすが使える広い廊下−の3つを満たすのは6・7%に過ぎない。

 高齢者用の住宅ニーズは高いが、民間住宅の実態はまちまちで、サービスを提供しない所もある。

(2009/03/31)