産経新聞社

ゆうゆうLife

わが街を離れず 自宅外での在宅介護(中)

「風の丘」の1階。デイの後は時代劇鑑賞。「ひとりでは寂しいから」と、夕食を食べに来る住民もいる=神奈川県伊勢原市


「風の丘」の2階にあるケア付き共同住宅の一室=神奈川県伊勢原市


 ■住民出資、ケア付き住宅設立

 「自宅ではない在宅」として、住宅に在宅介護サービスを組み合わせた事業所が注目を集めています。事業所にとっては、利用者宅へ移動せずに済む利点もあり、医療や不動産の異業種参入も。今回は「地域で暮らし続けたい」と、住民が設立した「高齢者住宅と介護保険事業所」を紹介します。(寺田理恵)

 小田急線で都心から約1時間。神奈川県伊勢原市と厚木市にまたがり、戸建てが立ち並ぶ「愛甲原(あいこうはら)住宅」は、昭和40年から約900戸が分譲された。住民の高齢化が進み、高齢化率が約32%となっている。

 その中に平成18年、オープンした「風の丘」(伊勢原市高森台)は1階が介護保険の事業所。2階は6室の居室と共用スペースからなる住宅型有料老人ホームでスタッフがリネン交換などの生活支援を行う。

 小山和江さん(92)=仮名=は1人暮らしが困難になり、愛甲原の自宅から移り住んだ。時々、自宅に戻って仏壇に手を合わせる。「今は不安はないわね」。かつて、働く母親の子育てを支援していた小山さんは愛甲原に知人が多い。今年の正月には、成人した「昔、世話した子」の家に招かれ、楽しい時間を過ごした。

 風の丘の1階には、登録した利用者がやってきて時間を過ごしたり、泊まったり、逆に自宅に訪問サービスを受けたりする。自宅に住み続ける高齢者を支える「小規模多機能型」だ。

 2階に住んで1階に通ったり、訪問サービスを受けたりも可能で、小山さんも1階を利用する。2階の居住費用は家賃と管理費で約11万円。3食つければ、月6万円かかる。

 運営するNPO「一期一会」の川上道子理事長は「高齢の方が『息子のところへ参ります』『有料老人ホームに入ります』と、寂しそうな様子であいさつに来る。知り合いのいる地域で暮らした方がいいと、住宅も造りました」と話す。

 風の丘は、愛甲原でひとり暮らしをしていた津崎能子(よしこ)さんが、自宅の土地を一期一会に提供してできた。建設費は、住民65人から計7100万円の出資を受けた。津崎さんの願いは住民に共通する。完成した風の丘に津崎さんも住み、19年2月に89歳で亡くなった。

 一期一会は昭和62年に家事援助サービスから始まり、津崎さんも63年から利用していた。その後、住民ニーズに応じてミニサロン、デイサービスと事業を増やしてきた。今後、さらに住宅8室を増やす計画だ。

 「この地で信頼できる人たちと暮らし続けたい 津崎能子」。こう刻まれた石碑が、風の丘に設置されている。

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 ■増える介護事業所併設タイプ

 介護保険施設や介護付有料老人ホームの新設が抑制されるなか、介護や生活支援サービス付きの高齢者住宅のニーズが高まっている。

 高齢者住宅財団によると、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)のうち、サービスのない住宅は37%にとどまる。一方、訪問介護やデイサービス事業所などを併設する所が増えている。運営母体はさまざま。医療法人による経営も平成19年に解禁され、不動産業からも参入があるという。

 介護業界に詳しい経営コンサルタントの早川浩士さんは「医療法人が進出し、高専賃に『小規模多機能型』と、往診をする『在宅療養支援診療所』を組み合わせたタイプが出てきた。療養病床の削減で生じる医療難民の受け皿となる。かつて認知症高齢者グループホームが急増したとき、福祉の素人が建物をつくって始めるケースがあった。高専賃も安直に造る人が出る危険性がある」と指摘している。

(2009/04/01)