産経新聞社

ゆうゆうLife

わが街を離れず 自宅外での在宅介護(下)

民家を改修した「結いの家羽衣」(左)。高齢女性5人が支え合って暮らす。隣には24時間職員のいるグループホーム(右)がある


1部屋を衝立で仕切って暮らす田中さん(左)と梅川さん。死ぬまで暮らすつもりで、位牌(いはい)を持って入った



 ■空き家改修、5人が共同生活

 移動コストがかかる過疎地では、民間事業者の介護サービス進出を期待できません。サービス不足のため、要介護度が重くなれば古里の家を離れざるを得ないのが現実です。人口約3800人の滋賀県余呉町もそうした過疎地の一つですが、町内で住み替えができる仕組み作りを進めています。(寺田理恵)

 雪国らしい重厚な民家が集落を成す余呉町。町の大部分は山林で、人口は南部の余呉湖周辺に集中する。

 町は、高齢化と過疎化で増えた空き家を改修し、高齢者住宅への転換を進める。特別養護老人ホームも老人保健施設もないが、昨年2月、同町池原地区に、初の認知症高齢者グループホームをオープン。同時に、隣接する住宅「結いの家羽衣」を開設した。

 結いの家は木造2階建てで、高齢者5人が支え合って暮らす。玄関は旅館と見まがうほど大きく、畳を敷き詰めた廊下は幅が広い。梅川とみゑさん(92)と田中ふじさん(91)は「1人では寂しい」と、1階にある12畳間を衝立で仕切って使っている。

 「ふきみそを召し上がりますか」と、梅川さんが小皿によそう。近くで摘んだフキノトウを、砂糖やみりんで炊いた自家製。ほろ苦さが春の息吹を感じさせる味は、家庭ごとにレシピが違う。炊事や洗濯を自分たちで行い、通販で苗を取り寄せて庭作りもする。1階には要介護の女性(91)も住んでおり、元気な2人が3人分の食事を作る。

 除雪作業が必要な豪雪地帯では、高齢者のひとり暮らしは難しい。要介護度が重くなれば、子に引き取られるか、町外の施設に入所するほかなかった。そうなると、フキノトウを摘む暮らしはできない。

 そこで、町は重度になっても町内で暮らせるよう、グループホームなど小規模施設を点在させる計画を立てた。結いの家のような住宅を隣接させ、ひとり暮らしの難しい人の住まいとし、緊急時には隣の施設職員が対応する。

 田中さんは「自宅は段差があるので、転がって、そのまま冷たくなったらどうしようと思いました。雪のけも大変ですし」。個室は6つあり、2階の10畳間に暮らす中村初栄さん(82)の家賃は約4万円。「安い家賃で立派な家に安心して住まわせてもらっています。5人家族みたいなもの」と笑顔で話す。

                   ◇

 ■市町村の動きは低調

 グループホームなど介護施設の指定は従来、都道府県が行っていたが、平成18年度からは一部を市町村が行う。市町村が中学校区程度の日常生活圏域に計画的に整備すれば、国の交付金が受けられる。しかし、活用は低調。全国5756の日常生活圏域のうち、市町村が交付金を申請していないところが過半数だ。

 余呉町は計画を立て、この交付金を活用する。同町の居住サービスは平成19年まで、福祉施設「生活支援ハウス」しかなかった。独居が不安な人が暮らしており、これを小規模特養に転換する計画を立てた。診療所やデイサービスなどが隣接し、重度でも対応できる。しかし、特養にすると、夫婦で入れない。残った一方が独居になるため、外部サービスを利用する住宅に変更。それまで同ハウスに住んでいた人などの受け皿として結いの家を新設した。

 原田晃樹・立教大学准教授は「余呉町の取り組みは、高齢者だけでも町で暮らしていける仕組み作り。結いの家のような住宅を行政が整備するのは、全国的にも珍しい。介護保険は民間に委ねすぎ、行政の指導監督は事後的な対応になっている。群馬県の静養ホームたまゆらの火災のような事態が生じるのは、自治体が指導をしなかったから。問題が起きる前に、自治体がコントロールする責務がある」と話している。

(2009/04/02)