産経新聞社

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介護報酬UP 職員給与や利用料は?(上)

介護報酬は3%上がったが、介護職らの実感は薄い=東京都足立区の特別養護老人ホーム「千住桜花苑」



 ■私の2万円…どこに?

 介護保険サービスの値段にあたる「介護報酬」が1日から、3%上がった。報酬引き上げは介護保険スタート以来。政府は介護職員の給与増でケアの質を高めたい意向だ。しかし、現場では「給与が上がらない」との声も。なぜ、介護報酬が上がっても、給与は上がらないのか。改定の影響を3回でリポートする。(清水麻子)

 「みなさん、ちょっと来てもらえますか」。2月下旬、東海地方の特別養護老人ホームで、施設長に呼ばれ、職員らが集まった。

 「いよいよか」。デイサービスに携わる介護職、江村洋介さん(33)=仮名=は期待に胸を膨らませた。昨秋からテレビで「職員1人当たり月に2万円給与が上がる」と繰り返してきた舛添要一・厚生労働相の顔が浮かんだ。

 しかし、期待は外れた。「うちは、給与は上げません。皆さんのプラスになるよう職場環境の改善に使います」。施設長の言葉に、「それでは、意味がないじゃないか」と声が出かかった。

 江村さんが、この法人に就職して8年。3年目には介護福祉士になり、5年目にはケアマネジャー資格を取り、専門性を磨いてきた。利用者に満足してもらえるよう、毎日頑張ってきたつもりだ。

 しかし、30歳を過ぎたころから、20万円にも満たない給与に疑問を抱くようになった。今の手取りは約18万円。「寮が月6000円なので生活はできます。でも、狭いので、結婚して子供ができたら暮らせません」。節約しようと、休みには実家で食事を取り、母に作ってもらった1週間分の総菜を抱えて寮に帰る。

 「30歳を過ぎて自活できず、両親には申し訳ない。でも、結婚して子供が3人いる同僚も親にパラサイトせざるをえないと嘆いています。『1人2万円』は一体、どこに消えたのでしょう?」

 ■給与上がらず広がる失望感 職員に説明必要

 厚生労働省の調査では、介護施設職員の月収は全年齢平均(税込み)で男性は23万円、女性は21万円。全産業平均の男性37万円、女性24万円を下回り、将来的にもあまり上がらない。

 介護職の離職や不足が絶えないことから、政府は昨年10月、介護報酬を3%上げ、給与水準を引き上げる方針を打ち出した。総額約2300億円は、全国の介護職約80万人(常勤換算)で割ると、1人月に2万円超。この数字に期待をかけた職員は多かった。

 しかし年が明け、給与がそれほど上がらないと分かると、失望感が広がった。

 厚労省は「3%分は職員の給与や研修など、待遇改善に使うよう、事業者に理解を求めている。しかし、強制はできない。事業者がどう職員の待遇改善をしたか、今秋にも調査するつもりだ」(老人保健課)と説明する。

 淑徳大学の結城康博准教授は「介護報酬は過去2回の改定で連続して下がっており、事業者に報酬のすべてを給与に回す体力は残っていない。ただ、報酬増分を何にどう使うか、事業者が丁寧に説明しないと、職員から逆に不信感を買う」と警鐘を鳴らす。

 東京都足立区の特別養護老人ホーム「千住桜花苑」は報酬改定で収入が実質2・4%分増えた。だが、土地と建物の借金返済があり、職員への還元は1人約6000円。先月下旬、職員会議を開き、厳しい経営状況で賃上げにつなげたことに理解を求めた。

 近藤常博施設長は「十分説明しなければ、苦しい中でつけた6000円が当然の権利になってしまう。給与はお上から降ってくるものではなく、経営努力で増えるもの。それを職員に周知するうえでも、説明は大切」と話す。

 一方、3%では給与水準は改善しないとの意見が相次ぎ、与党は追加経済対策で、3年間で約4000億円規模の公費を投入し、賃上げを図る方針だ。結城准教授は「こちらも、職員の期待が先走っている。事業者は詳細が分かり次第、職員に説明していくべきだ」と話している。

【用語解説】介護報酬

 介護保険でサービスを提供する介護事業者に支払われる、サービスごとの公定価格。事業者の運営実態を考慮し、3年に1度、見直される。

(2009/04/14)