産経新聞社

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介護報酬UP 職員給与や利用料は?(中)

介護報酬増で給与が上がった介護福祉士の大和田健司さん(中央)。専門性を生かして働く=東京都日の出町の「ひのでホーム」


 ■給与の引き上げ、施設で差

 介護報酬の引き上げで、4月から職員給与を上げる施設があれば、上げない施設もあり、職員は明暗さまざま。全体で3%上がったはずなのに、なぜ施設によって差が生じるのだろうか。(清水麻子)

 東京都でも、自然が豊かな日の出町。特別養護老人ホーム「ひのでホーム」で介護職として働く大和田健司さん(29)は「給与が上がると、さらに頑張ろうという気がわきます」と力を込めた。

 大学卒業後、高齢者にかかわりたいと仕事に就き、今年で8年目。毎年少しずつ昇給はあったが、月の手取りは20万円前後だった。

 しかし、今年は初めて計2万円の大幅増になる予定だ。ホームでは、介護福祉士の資格手当(5000円)が新設され、さらに昇格で主任手当(1万5000円)も加わる。「介護の仕事は、お金に変えられないやりがいがある。でも、続けるには生活の安定が必要。増えた分は将来のために貯金しようと思います」と大和田さん。

 一方、神奈川県秦野市の新型特別養護老人ホーム「はだの松寿苑」の介護職、亀井俊至さん(29)は昇給はあったが、特別な支給はなし。「子供が生まれたばかりですし、特別に支給がなかったのは残念」と肩を落とす。

 以前は会社員だったが、介護の世界に転職し、今年で4年目。上司や同僚に恵まれ、仕事も楽しい。しかし、子供が成長した10年後の年収で教育費が確保できるか不安がよぎるという。

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 ■「加算」が分けた明暗 質の高さ・重い業務に多くの費用

 給与が上がる大和田さんと、上がらない亀井さん。明暗は、介護報酬改定に組み込まれた「加算」の影響だ。日本社会事業大学の藤井賢一郎准教授は「『加算』は『これをやれば高い報酬をあげます』という国の政策誘導策。3%増といっても、サービス全体を引き上げたのではない。加算が取れた施設、取れない施設で明暗が分かれる」と説明する。

 今回の改定では、介護福祉士資格のある職員が一定以上いる▽3年以上勤務する職員が3割以上▽夜勤職員が国の基準より1人以上多い−などの施設へ、加算が新設された。質の高いケア、業務の負担が重い施設に多くの費用が出る仕掛けだ。

 大和田さんが勤める「ひのでホーム」では、介護福祉士の資格を持つ職員が6割。新設加算5種類がつき、ホームの収入は前年比1000万円以上増。増収で介護福祉士手当と社会福祉士手当(各5000円)を新設し、パートを含め、専門資格のある職員給与を手厚くできた。神田明啓理事は「東京23区の施設は地域加算で報酬単価が手厚くなったが、日の出町は同じ都内でも地域加算がつかない。それでも、経営努力を続けてきたからこそ職員に還元できた」と胸を張る。

 一方、給与が上がらなかった亀井さんが働く「はだの松寿苑」は地域加算の対象でもなく、新設加算も2種類しか取れなかった。

 久保谷勤理事長によると、オープン3年目で介護福祉士はまだ少ない。また、国の方針を受け、全室個室のユニットケアの施設を、土地込み総工費約20億円で建設したが、補助金や交付金が年々減り、借金返済に追われる。節電や能力給導入など、効率化に血眼になるが、単年度収支を黒字にするのがやっと。久保谷理事長は「職員に還元できず申し訳ないが、国の方針に振り回され、どうしようもない」と肩を落とす。

 藤井准教授は「国が加算で介護サービス全体の質を高めていくのは良いことだが、経営が回っていない施設で働く職員の給与は担保されない。首都圏のベッドタウンの日の出町や秦野市では、人件費は東京23区に比べてそれほど低くない。それなのに、介護報酬が最も低い区分に分類されているのは制度設計上の問題で、再考が必要だ」と指摘している。

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【用語解説】地域加算

 都市部では地方より物価や人件費が高いため、介護報酬1単位が高く設定されている。基本は1単位10円だが、今回の改定で東京23区は最大11・05円になる。基礎単価が上がるので事業収入への影響が大きい。

(2009/04/15)