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介護報酬UP 職員給与や利用料は?(下)

ケアマネジャー(右)から、利用料の説明を受ける鈴木正江さん(中)と、長男の一雄さん(左)=東京都北区


 ■短時間の訪問介護、値上がり

 介護報酬の改定で、介護サービスの利用料も変わります。特に、1時間未満の家事援助や、30分未満の身体介護など、短時間の訪問介護を頼んでいる場合、利用者負担は1回当たり20円程度の値上げになります。東京23区など、都市部に住む人の利用料にも影響が出そうです。(清水麻子)

 「介護保険の利用料は上がるんでしょうか?」

 東京都北区の実家を訪れた会社員、鈴木一雄さん(54)は先月下旬、認知症の母、正江さん(75、要介護2)のケアマネジャー、三橋正宏さんに尋ねた。

 「ヘルパー代は1000円程度上がりますが、デイサービスが若干下がるので、負担増は数百円程度で済むと思いますよ」。三橋さんが電卓をたたくと、鈴木さんはほっとした表情を見せた。

 父親の範二郎さん(89、要介護5)が入院中のため、正江さんはヘルパーに助けてもらい、自宅で1人暮らし。父母の年金は月に計約22万円だが、父親の入院費約10万円と、年々上がる介護保険料、家の借地料などを引くと、生活費はそれほど残らない。母親のヘルパー利用を極力抑え、1日1時間ほどしか来てもらっていないが、短時間利用の値段が上がると聞いて不安だったという。

 鈴木さんは「不況の影響で、私の年収は60万円以上減り、高校や大学に通う4人の子供にもお金がかかる。父母にもっとお金を出してあげたいのですが、僕にかい性がなく…、悔しい」と肩を落とす。

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 ■都市部では“二重苦” 事業所収入は増加へ

 介護報酬改定で、短時間のヘルパーサービスの報酬単価が上がる。それに伴い、利用料は、30分以上1時間未満の家事援助ヘルパーが1回あたり21円増、30分未満の身体介護ヘルパーが同23円増になる。

 厚生労働省老人保健課の担当者は「介護保険の財源は限られている。ヘルパーサービスは、長時間より、短時間で頻回に訪問した方が、事業所収入としても効率的で、利用者の自立につながる可能性もあるので、短時間利用を増やしたい」と解説する。

 事業所収入が上がれば、現在、1200円程度のヘルパーの時給を上げられる。長く勤めてもらい、質の高いサービスにつなげる狙いだ。

 多くの訪問介護事業所では、先月から利用者に説明を開始した。アサヒサンクリーンの鈴木昭彦・東京支店長は「利用者はまだ、実感が伴わないようだ。4月分の請求書は5月初旬に送付し始めるため、声が大きくなるのはこれからかもしれない」と話す。

 立正大学の国光登志子教授は「経済的に苦しい人が、医療ニーズが高かったり、認知症の問題行動があったりで、頻回のヘルパー利用が必要だと、大変だ」と懸念する。また、利用限度額を超えてサービスを使わざるをえない人は、限度額を超えた利用に10割の自己負担がかかる。

 大学の非常勤講師として働く仙台市の本村昌文さん(38)は、自宅で脳梗塞(こうそく)で倒れた妻(44)=要介護4=を介護する。先月、ケアマネジャーから「利用料が少し上がるかもしれない」と説明された。同市は地域加算が増え、利用料も上がるためだ。同様に東京23区など、都市部で利用料が上がる。

 本村さんは介護報酬引き上げ前も、自己負担分を含め月に約15万円を払っていた。「あまり上がると、サービスを減らさなければならない。仕事との両立が難しくなる…」と心配顔だ。

 国光教授はケアマネジャーの手腕に期待する。「ケアマネは地域の助け合いサービスなど、安く使える自費サービスや、認知症の見守りなどの住民参加型サービスの情報提供をし、負担軽減になるプランを考えてほしい」と話している。

(2009/04/16)