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インドネシア人 介護士・看護師 受け入れに消極姿勢

インドネシア人の介護福祉士候補生のダンタさん(右)とヌルマさん(左)=横浜市の特別養護老人ホーム「新鶴見ホーム」


 □日本の施設・病院

 ■半数以上が来日できず/不況で介護職に日本人増加

 今年11月に来日するインドネシア人の介護福祉士・看護師候補者を受け入れる介護施設や病院が不足し、候補者の半数以上が来日できない見通しだ。仲介団体は募集を2週間以上も延長する異例の対応をしたが、応募は低調。日本の施設や病院が受け入れに消極的な理由を探った。(清水麻子)

 「文化が違う外国人が介護現場に入っても、うまくいくか分からない。入所者の家族から心配の声も上がっており、インドネシア人介護士を受け入れるメリットを感じない」

 東京都内の、ある特別養護老人ホームの関係者はそう語る。

 インドネシア人介護福祉士候補生らの受け入れは、日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づき2年目だが、消極的な施設は多い。

 受け入れを仲介する国際厚生事業団によると、今年は約800人の受け入れを募集した。しかし、応募は少なく、締め切りを2週間以上も延ばしたが、最終的に手を挙げたのは、施設が78カ所193人、病院が67カ所167人の計360人。募集総数の半数以下に止まった。

 一方、インドネシアでは、選考を通過した約960人が5月中ごろの事業団との面接を控えて待機中だ。事業団は締め切り後も、施設などを訪問し、受け入れを打診した。

 外国人看護師・介護福祉士の事情に詳しい九州大学大学院医学研究院の平野裕子准教授は、日本側の介護施設や病院が受け入れを敬遠することには、構造的な理由があるという。「一番の理由は高額な費用。渡航手数料や日本語研修代など、施設は1人あたり約60万円を出して受け入れる。しかし、彼らは日本語で行われる介護福祉士や看護師の国家資格に受からなければ、帰国せざるを得ない。コストをかけて育てても、帰国されるリスクがあるのでは、受け入れ数を増やすのは難しい」という。

 不況の影響も大きい。厚生労働省は相次ぐ派遣切りの後、介護現場で働いたことがない人にヘルパー2級の資格取得費用を拡充。さらに無資格者を雇った事業所への補助も打ち出している。人手不足に悩む介護現場に、人が戻ってきているようだ。

 厚労省によると、ハローワークでの介護職への新規申し込みは今年2月には約2万件と急増。前年同月比で約3割伸びた。

 無資格者への助成制度を使い、新たに介護福祉士3人を雇った東京都内の特養関係者は「介護職に応募してくれる人は少しずつ増えており、外国人を雇わなくてもやっていける」と話している。

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 ■「初期投資かかるが総合的にはメリット」 国は経済的支援を

 横浜市の新鶴見ホームでは今年1月下旬から、インドネシア人介護福祉士候補生2人を受け入れている。

 堀江昭正ホーム所長は「市独自の助成をのぞくと、2人の初期投資に200万円近くかかり、当初は職員がほぼ、つきっきりになるなど、手間もかかった。ただ、総合的には効果のほうが大きいように思う」と前向きだ。

 「彼女たちは明るく、いつも笑顔で一生懸命。ケアが日常になってしまった職員にも、新たな気づきがあった」

 平野准教授は「多大な経済的負担をしてまで応募するのは、国際協力をしようという介護施設や病院などの一部に限られている。今後、多くの施設に広げるなら、候補者が資格を取りやすいように、国は入国前の日本語研修を負担するなどして、受け入れ側にかかる経済的負担を軽減することが必要」と指摘している。

(2009/05/01)