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新型インフル、緊張高まる高齢者介護施設

国内で初の感染疑い例が出て、来院患者に手を消毒して対応する看護師ら。対応の速い自治体では、この時期にはサービス休止を予告していた=1日午前(山田俊介撮影)


 ■どうなる通所休止

 ■問われる備え 自治体、準備に温度差

 新型インフルエンザの感染拡大が懸念されるなか、まだ感染者が確認されていない地域でも、高齢者介護施設の緊張が高まっている。周辺で患者が発生した場合の通所や短期入所サービスの休止、施設入所者の感染−。“その時”に備え、人手の確保や、マスクとオムツの備蓄などに追われるが、実際に感染者が出た場合の展開は予測できない。どの程度、準備すれば足りるのか、見極めがつかない状況だ。

 ◆情報なく手探り

 東京都内のある高齢者施設の施設長は「神戸や大阪のように多くの患者さんが出たら、このあたりの病院では収容しきれないと思う。入所者が新型にかかっても、施設のなかで対応するしかないかもしれない。その場合は、日ごろ、通所に使っているフロアを隔離室として使う予定です」と話す。

 この施設では今月初め、通所サービスを利用する高齢者らに「お知らせ」を配った。新型インフルエンザが都内で発生したら、通所や短期入所を休止するとの内容。自治体と相談し、利用者が準備できるようにと、いち早く対応した。しかし、その後、国内で患者が出ても、自治体から特に指示の変更はない。情報もなく、つてを頼って、関西の施設に電話やメールで状況を問い合わせる日々だ。

 「利用者さんの家族から『なんとか預かってほしい』といわれたら、受けざるを得ない。しかし、入所者には感染で重度化しやすい糖尿病の人もいる。中にいれば安全ですが、通所の利用者が出入りすれば、感染リスクも高まる。通所の人は短期入所に切り替えて、預かるんでしょうか。もっとも、職員の数との兼ね合いもありますが」と悩む。職員の住まいが感染者の多い地域なら、入所者への感染防止のため、仕事を休ませざるを得ないからだ。

 ◆独自に対策も…

 少ない職員数でどうサービスを提供するかは、どの施設にとっても課題。首都圏の別の施設では、職員配置の変更を準備中だ。「県からも市からも特に指示はないが、独自に入所者の命を守る対策を2週間前から取っている。感染者が出たら、かなりの職員が出勤できなくなる。デイケアとリハビリを中止して、その担当職員を施設入所者へのサービスに回すトレーニングを行っている。流行には必ず第二波、第三波がある。今回だけでは済まない」と準備を怠らない。

 介護サービスの通所や短期入所の休止については、政府の従来の行動計画では、国内で患者が発生した時点で実施するとしていた。強毒性の鳥インフルエンザを想定していたためだ。しかし、新型インフルエンザが「弱毒性」「季節性インフルエンザ並み」と変わり、各自治体は行動計画を弾力的に運用。休止のタイミングを「国内で患者が発生した時点」から、「都道府県で発生」「市区町村で発生」へ、範囲を狭める自治体もあった。

 事業者の一部からは「通所サービスの休止は、小学校を閉めるのとは違う。独り暮らしの方は食事がとれなくなる。要介護度の重い人では、休止が命にかかわるケースもある」との声も出ていた。

 ◆代替サービスは?

 休止範囲の判断は自治体に任されており、柔軟な対応が求められるが、サービスがストップして困る高齢者への代替サービス提供は不可欠。しかし、その準備は自治体によって温度差があるようだ。兵庫県では、患者が発生する前の4月末から市町村や施設に通所サービスを休止する可能性と、短期入所を受け皿として活用する方針を伝えていた。通所の休止で困る高齢者を、一時的にあずかろうとの考えだ。通所の休止を訪問サービスで代替する方法もある。

 静岡県も「訪問サービスの対象をしぼる可能性がある。生活に支障が出る人への訪問を切るわけにはいかないので、必要性の高い人を把握したい」(長寿政策局)と受け皿づくりを急いできた。介護サービスが止まると、命にかかわる場合もあるだけに、自治体や事業所の備えが問われそうだ。

(2009/05/21)