産経新聞社

ゆうゆうLife

認知症介護の身近なアイデア(下) 


 認知症の人が在宅で暮らす際の2大心配事は、火の不始末と遠くに行ってしまう徘徊(はいかい)だ。家族はどうやって危険を回避すればよいのだろうか。認知症の人を危険から守る自己防衛術を紹介する。(清水麻子)

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 ≪火の不始末≫

 ■ガス元栓の位置を替える

 「怖くて足が震えてしまいました」。認知症の夫(85)を介護している大阪府枚方市の松井喜代子さん(82)は、つい3カ月前の出来事を思いだす。

 買い物から帰ってきたら、コンロのやかんからお湯が吹きこぼれていた。「幸い、やかんの中に水が入っていたので大事には至らなかった。でも水が入っていなければ火事になっていたかもしれない」と松井さん。

 夫の火の不始末は1度や2度ではない。夜中に台所で「ボッ」という点火音が鳴って目覚め、台所を見ると、夫が火の前に立っていた、ということも3度ほどあったという。

 実は、コンロの消し忘れが原因の火事は多い。東京消防庁によると、平成19年に東京23区などの管内で、ガスコンロやガスレンジなどの家庭内の厨房(ちゅうぼう)器具による火災は584件発生。そのうち、消し忘れによる火事は約6割を占める。

 どうすれば認知症の人の火災を防げるのか。

 松井さんはケアマネジャーに相談し、大阪ガスの営業所に頼んでガスの元栓をコンロの後ろの目立たない位置に替えてもらった。外出時や就寝時には、ガス栓をひねっておけば夫は気づかない。「2000円程度で解決しました」と松井さん。

 大阪ガスの担当者は「松井さんのように、ガス栓の付け替えは個別対応で行うケースもあるが、一般的なのは、消し忘れた際に自動で火が消える安全機能付きコンロに替えてもらうこと」と話す。大阪ガス以外の他のガス会社でも自動消火機能付きのコンロに替えてことを薦めている。東京ガスによると、安全機能付きコンロの値段は、数万〜数十万円という。

 各自治体などでは、ガスを使わない電磁調理器を安価で配布している。東京都中野区では、必要と判断された認知症の高齢者家庭は卓上の電磁調理器を4100円の自己負担で購入できる。担当者は「ボタンで強さを調節し、一定の時間が経過すれば過熱が止まる。鍋を乗せなければ熱くならず、やけどの心配も少ない」と話す。

 電磁調理器はガスと違い、ボタンで熱の強弱を調節するため使いこなせない場合もあるが、火事の危険には変えられない。ガスの元栓をすべて閉じてしまい、こうした調理器を使うよう、考え方を切り替えるのも手だ。

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 ≪徘徊≫

 ■GPSで把握

 家族が目を離したすきに、ふらっと散歩に出かけてしまう「徘徊(はいかい)」に悩む家族に人気なのが、セコムのGPS機能のついた探索システム「ココセコム」だ。

 認知症の人は、端末をポケットなどに縫いつけたり、専用のケースなどでベルトに装着。家族は高齢者の姿が見えない場合、携帯電話やパソコンに接続したり、オペレーションセンターに電話したりすることで1分以内に居場所が把握できる。

 遠くて家族が駆けつけられない場合は、全国約2200カ所の緊急対処員が1万円で駆けつけ、タクシーを呼んで家族の元に届けてくれる。

 セコムの担当者は「2001年からサービスを始め、契約が35万件に達し、認知症高齢者の家族から『助かった』という声が数多く届いている」と話す。

 加入料金は5000円で、月々の基本料金は検索の回数によって異なり、900〜2900円。加入料金などを自治体が補助している場合もある。問い合わせはセコム(電)0120・855・756。

 認知症の人と家族の会(本部・京都、(電)075・811・8195)の小川正事務局長は「警察や商店街、近所の人には事前に連絡しておき、発見したら連絡してもらえるようよく頼んでおくこと。また、タクシーに乗って遠くまで行ってしまう場合は、タクシー会社数社に頼んで、徘徊ルートを一周して帰ってきてもらうなどの協力をお願いしている家庭もある。いずれも写真を持って、顔などの特徴を覚えてもらうよう、家族は積極的に安全網を張り巡らせてほしい」とアドバイスする。

 一方、同会東京支部の原英子代表によると、認知症の人の洋服に、名前や住所、緊急連絡先などを書いたネームプレートを張り付けることが有効という。原代表は「名札を見た誰かが家族に知らせてくれる場合がある。東京都支部では、アイロンでつくネームプレートを販売しているが、市販の一般用ネームプレートでも代用できる」と話す。

(2009/05/26)