かかりつけ医と大病院の役割の差とでもいうべき話を、友人から聞いたので紹介したい。
この友人の母親がある病院で超音波検査を受けたところ、「肝臓に影がある」といわれた。そこで、かかりつけ医は患者さんに肝臓の権威の先生を紹介した。
紹介先は当然、大きな病院である。超音波の再検査とともに、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像装置)による検査も実施。その結果、この患者さんは数年前に大腸がんを手術しており、この影は転移性肝臓がんの可能性が高く、血管造影検査を行うことになった。
説明を聞いた家族は真っ青。本人に話すかどうか家族会議を行い、とりあえず、最終の血管造影を待とうということになった。こういった検査が行われるのには時間がかかり、全部で1カ月以上かかった。
一方、この患者さん本人は家族がそんな話し合いをしているとは知らず、高血圧のためかかりつけ医にそのまま通院。かかりつけ医は肝臓で何が疑われているか、高齢の患者さんに告げず、検査結果が出る間に点滴治療を行っていた。
そして大病院での血管造影の結果であるが、影は悪性のようだが小さくなっているという。再度、超音波検査で以前の影と比較しても小さくなっているのである。どうも、肝臓に袋のようなものができてそこに膿(うみ)がたまる病気「肝臓膿瘍(のうよう)」だったらしい。
かかりつけ医の理屈は簡単だ。血液検査で炎症反応があり、どこかに炎症があると疑い、抗生物質を点滴した。病巣が分かっていたわけではないが、血液検査を何回か繰り返し、炎症反応が改善しているので、そのまま抗生物質を投与し続けたところ、肝臓の影はなくなったのである。
たしかに大病院は多くの検査ができる。しかし、小回りがきかない。一方、かかりつけ医は頻繁に患者さんを診察しており、今回は診断はしなかったまでも、かかりつけ医が一本とった形になった。
このケースは特殊な例だと思う。反省点をいえば、医師同士のまめなコミュニケーションがなかった。紹介状の返信には時間もかかるし、頻繁にやり取りができない。こういったことも改善すべきであろう。(医学博士 真野俊樹)
(2006/12/07)