病気にならないようにするには、まず原因がわからないと予防のしようがない。
例えばインフルエンザは原因が分かりやすく、インフルエンザウイルスへの感染が原因だ。感染から発病までの経過が短く、因果関係が明らか。予防のターゲットはウイルスであり、感染予防とワクチンが強力な武器となる。
これに比べ、わが国の3大死因であるがん、脳卒中、心臓病、糖尿病や高血圧などの原因はただ1つではない。例えばがんはいくつかの原因が段階的に作用し、10〜30年の経過をとりながら発生してくる。脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞も、長い年月をかけてできてくる動脈硬化を基盤として発症する。
因果関係がはっきりしない病気について、その原因を追究するのは難しい。がんは、ウイルスや化学物質が単独の原因で発生する場合もあるが、そのほとんどは1つの原因では説明できない。
そのかわり、日常の生活習慣と密接に関連していることがわかってきた。つまり、がんになる確率を減らすには、早いうちから生活習慣を改善すればよいということになる。脳卒中や心臓病も、若いころからの生活習慣によって、その発症確率が左右されることがわかっている。しかも、共通点も少なくはない。
ではどう改善すればいいかを探るための研究として、筆者が専門としている疫学研究がある。実際の人々の生活を調査し、どういう生活習慣をしている人がどんな病気になりやすいのか、あるいは、なりにくいかを長期的に追跡調査する。
このような特定集団を追跡調査する疫学研究の1つの手法を、専門用語で「コホート研究」という。
われわれのコホート研究は、1990(平成2)年〜1994(同6)年に、日本の11地域に住む当時40〜69歳であった約10万人の人々の生活習慣を調査。10年以上経過した現在、約1万人が亡くなり、約1万人ががんに罹り、約3000人が脳卒中、約700人が心筋梗塞を発症した。
どういう生活習慣だと、このような病気になりやすかったのか。この連載「予防のカルテ」では、そうした例を紹介しながら、病気になりにくい生活習慣を示していきたいと思っている。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/01/11)