欧米では、生活習慣病といえば心筋梗塞(こうそく)だ。例えば米国では死因の30%が心筋梗塞を主体とする心臓病。原因は、脂肪分の多い食事により起こる動脈硬化だ。心臓に栄養を送る血管がふさがれると、心臓を動かす筋肉の働きが衰えてくるのである。
ところが、日本では欧米に比べ心筋梗塞が少ない。心臓病全体でも死因の15%程度で、心筋梗塞に限ると5%に過ぎない。
理由は、脂肪分の少ない和食のおかげだということから、欧米では和食といえばヘルシー料理の代名詞になっている。確かに、日本人は欧米人に比べ、血液中のコレステロールが少なく、これが心筋梗塞が少ない一つの要因であることは間違いないだろう。
そのうえ、血液中のコレステロール濃度が同じレベルの人で比べても、日本人は欧米人よりも心筋梗塞の発症率が低いことがわかっている。
理由は魚をよく食べる食習慣にあると考えられている。特にアジやイワシなどの青身の魚には、EPAやDHAといった二重結合をたくさん持った脂肪酸(n−3系多価不脂肪酸)が豊富。これらには、血液を固まりにくくサラサラにするなどの働きがあることが知られている。
われわれのコホート研究では、魚の摂取量と心筋梗塞の関係を調査。対象地域に住む40〜59歳の男女に普段の食事内容についてアンケートを行い、約4万人について、その後約11年の心筋梗塞の発症率を比較した。
魚の摂取量で5グループに分けると、最も少ないグループの平均摂取量が1日約20グラム相当、最も多いグループで約180グラム相当。心筋梗塞の発症リスクは魚の摂取量が多くなればなるほど下がり、摂取量最多のグループでは半減した。
EPAとDHAの摂取量で比較すると、もっとはっきりとした関係が見られ、最も多いグループでは3分の1のリスクだった。
これまでも欧米の研究で、1日平均30〜60グラム程度の魚の摂取で心筋梗塞予防になることが示されていた。それが日本人で、もっと多く食べた場合、さらに予防効果が高まることが明らかになったわけだ。
心臓病予防は、和食の中でも特に魚にカギがあるといえそうだ。
(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/01/18)