がんになる確率は男女とも高齢者ほど高いため、日本でがんが増えてきたのは、高齢化の当然の結果といえる。
日本人で50歳までにがんになる人は約5%。「人生50年」といわれた時代には、がんで死ぬ人は少なかっただろう。ところが、50歳超でがんになる確率はとたんに高まる。現代のように「人生85年」になると、死ぬまでにがんを経験する確率は男性で2人に1人、女性で3人に1人だ。
確率を詳しくみると、60〜64歳の男性10万人あたりで約1000人▽70〜74歳では約2000人▽80〜84歳で約3000人−が、毎年がんにかかる計算だ。
では、年をとってから気をつければよいのだろうか。実は若いころからの生活習慣と関係がある。例えば、肺がんの発生率は、60歳超で急速に高くなるが、これは20歳ごろに始まる喫煙習慣の有無で大きく変わる。
われわれのコホート研究では、40〜69歳の男女9万人に喫煙習慣を尋ね、平均8年間追跡して肺がんの発生率を比較。たばこを吸うグループは、吸わないグループに比べて4〜5倍高い確率で肺がんになることが分かった。また、喫煙習慣は胃がんなどの発症リスクも高め、喫煙者グループはそうでないグループに比べ、何らかのがんになる確率が約1・5倍も高かった。
すなわち、禁煙は生涯で高い確率で遭遇するがんのリスクを3分の2にまで下げてくれる可能性を持つ、効率のよいがん予防法なのである。
禁煙年数ごとに比較すると、たばこを吸うグループで4、5倍だった肺がんの発生率が、たばこをやめて9年以内のグループでは3倍、10〜19年では1・8倍に低下。20年以上禁煙したグループでは、吸わない人とほぼ同じ発生率だった。
原因をひとつ取り除いても、リスクが減るまでには長い時間を要す。だから、老年期にがんになる確率を低くするために、生活習慣の改善は、大人としての自覚ができて将来の設計図が描ける30代には遅くても取り組んでいただきたい。
ただ、60歳で禁煙した人でも、しなかった人に比べて、寿命が数年延びるとの研究もある。生活習慣改善は何歳で始めても遅くはないのである。
(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/02/01)