喫煙習慣により、がんのリスクは高くなるが、自分の習慣をあれこれといわれたくない人もいるだろう。しかし、本人は喫煙しなくても、他人のたばこの煙でがんのリスクが高まることがある。たばこを吸う人と、吸わされる人にとって、まったく違う意味を持つ「受動喫煙」は、生活習慣というよりはむしろ環境問題だ。
ここ数年で多くの公共の場所での禁煙が進み、受動喫煙の機会が少なくなった。だが、路上では相変わらずくわえたばこを見かけるし、受動喫煙なしで食事を楽しめる場所もまだまだ限られる。最も影響のある家庭や職場では、どの程度、分煙が進んでいるのだろうか。
これまでに、受動喫煙と肺がん、心臓病(虚血性心疾患)の関係は明らかとされている。肺がんで20〜30%、心臓病で約20%リスクが高くなる。子供のぜん息や肺炎、気管支炎への影響も明らかである。さらに妊婦の受動喫煙で胎児の成長が妨げられる危険性が生じる。
では、実際に受動喫煙している人と、していない人ではどう違うのか。1960年代の平山雄氏らの26万人コホート研究では、喫煙しない女性の肺がんリスクは、夫が1日20本以上喫煙していると、夫が喫煙していない場合の2倍高くなったと報告した。
わが国では男性の喫煙率が高く、女性が低い。そのため家庭や職場で受動喫煙の機会がある女性が多いのである。
そこで、われわれのコホート研究では、喫煙しない女性の乳がんの発生リスクを受動喫煙の有無で比較してみた。すると閉経前の女性の乳がんリスクは自分の喫煙だけでなく、受動喫煙のある場合に高くなっていた。
乳がんの発生は女性ホルモンと強い関係があるが、喫煙によっても影響を受ける。閉経前の乳がんの原因の1つに、本人の喫煙そして受動喫煙があるのではないかと問題提起する結果になった。
欧米では受動喫煙への意識が高く、ほとんどのレストランやバー、パブなどで禁煙が進んでいる。そうしたサービス業従事者の間では受動喫煙の機会が多く、健康被害が問題になっていたからだ。
昨年11月からハワイ州で公共の場所が全面禁煙となった。米国で同様の法律が施行されるのはこれで14州となった。
(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/02/08)