たばこでがんになる確率が高まることは知っていても、喫煙はストレス解消など、ほかに良い面があるから、構わないと考えている人が意外と多い。確率的には低いが、吸っている人で長生きする人や、吸わないのにがんになる人もいる。
しかし、これまでの疫学研究からは、喫煙習慣が健康に良いという証拠は見つからない。
生活習慣の中で、喫煙習慣は把握しやすい。食習慣や栄養などと比べ、あいまいな部分が少ないのだ。まず、喫煙者と非喫煙者に分かれる。喫煙者を、喫煙本数と年数で掛け合わせた指標も病気の発症確率の予測に有効だ。また、やめた人も、やめてからの年数で分けられる。
結果もかなりクリアに出る。日本人のがんに関しては、喫煙者は非喫煙者の1・5倍程度かかりやすい。われわれのコホート研究では、がんのほかに、寿命前の死亡、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などの循環器疾患、糖尿病などについて、約10年の追跡期間に、喫煙者は非喫煙者よりも、どれくらい病気になりやすいかを調べた。
喫煙者の寿命前の死亡リスクは、男性で1・6倍、女性で1・9倍になった。男性の喫煙者では、年数と本数が多い人ほど高くなった。女性では吸っている人が少なかったので、それ以上の細かい分析ができなかった。やめた人では、非喫煙者と、大きな違いがなかった。
脳卒中については、男性で1・3倍、女性で2・0倍。心筋梗塞は非常に関連が強く、男女とも約3倍高くなった。いずれも、1日当たりの本数が多いほどリスクが高くなる傾向があった。
糖尿病は、1日20本以上の喫煙で、男性で1・4倍、女性で3・0倍だった。脳卒中や糖尿病では、がんに比べて、女性のリスクの方が大きく出る傾向にある。
禁煙した人のがんのリスクが下がっていくのには、何年もかかる。しかしながら、循環器疾患や糖尿病ではそのペースは速い。特に、心筋梗塞は喫煙をやめた直後からでも、その効果があらわれると考えられている。
(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/02/15)