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研究結果と利害の衝突

 あるモノによってがんのリスクが高くなる、という研究結果が出たとしよう。そのモノを売っている会社から研究費が出ている場合、研究者はこの結果を公表するのを躊躇(ちゅうちょ)するのが人情だ。

 逆にそのモノでがんを予防できそうだという場合には、結果をあおってしまいたくなるのも、また人情だ。

 欧米では、研究者と研究費につきもののこの人情を、完全な悪とはしない。そのかわり、成果の報告発表の場などで、利害関係を明示することがルールになりつつある。情報の受け手は、研究内容に発表者の利害を重ねて判断することになる。

 国際機関などで、がん予防効果や発がん性を科学的に評価する会議に出席する際も、利害の衝突に関する文書への署名が義務付けられる。関連する会社から研究費をもらった場合はもちろん、株や特許を持っている場合にも利害の衝突は生じるから、申告しなくてはならない。

 その他、WHO(世界保健機関)では、テーマとは無関係に、たばこ関連企業とのかかわりを明らかにすることが要求される。かつてアメリカで、巨大たばこ企業が都合の悪い研究成果を隠していたことは、有名な医学誌で特集されたし、映画にもなった。

 どんな研究でもお金がかかる。研究結果を見たり聞いたりする場合には、どんな研究方法かを知ることも大切だが、誰が何の目的でそのお金を出したかも、1つの判断材料とすべきだろう。

 日本では、例えば文部科学省や厚生労働省が所管する科学研究費ならば、利害の衝突が生じにくい。限りある予算を、公募などの手続きを経て研究者が競って獲得する。そして、どのような結果が出ても、成果を公表できるし、また公表しなくてはならない。

 疫学研究は、国民の健康の維持・増進、公衆衛生の向上が目的だ。したがって、何ら利害関係のない公的研究費が理想的である。民間企業からの資金援助は、利害が絡まないと受けにくい。

 われわれが行っている研究も、公的研究費を原資としている。だからこそ、どのような結果であろうが、誰に気兼ねすることもなく、科学的な立場から発表できるのである。

(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)

(2007/03/15)

 

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