「酒は百薬の長」ということわざがある。漢の歴史書「食貨志(しょっかし)」に、官に酒を作らせる考え方として記された「酒百藥之長」が原典とされる。適度な飲酒は心身によい影響を与えるということだが、はたして科学的な根拠はあるのだろうか?
われわれのコホート研究では、40〜59歳の男性約1万9000人の飲酒量を調査。この集団を約7年間追跡し、寿命前の死亡との関係を調べ、平成11(1999)年に論文発表した。
日本酒にして1日当たり1合、2合、3合のグループに集団を分けた。酒量はエタノール換算で計量。日本酒1合(180ミリリットル)のエタノールは約23グラムで、これは焼酎(25度)0・6合、泡盛(30度)0・5合、ビール大瓶(633ミリリットル)1本、グラスワイン(100ミリリットル)2杯、ウイスキーダブル(60ミリリットル)1杯−にほぼ相当する。
酒量で分けると、「飲まない」が21%▽「たまに飲む」11%▽「1日当たり1合未満」18%▽「1合以上2合未満」20%▽「2合以上3合未満」15%▽「3合以上」16%で、1日2合以上飲む大酒家が3割を占めた。女性では飲酒者が少なく、データが出せなかった。
「飲まない」グループの死亡リスクを1とした場合、男性で最も死亡リスクが低くなったのは「1合未満」のグループで、「飲まない」の0・6倍。そして飲酒量が増えるほど高くなり、「1合以上2合未満」が0・9倍、「2合以上3合未満」が1倍で、「飲まない」と同じ。そして、「3合以上」では1・3倍になった。「酒は百薬の長」を裏付けるデータだが、やはり「過ぎれば毒になる」。
ただし、この「飲まない」グループには、病気になった▽身体が弱い▽体質的に受け付けない−などの理由で「飲めない」人が混在し、そのために「1日1合未満」よりも死亡率が高くなった可能性がある。飲まない人が飲むようにしたらリスクが下がったわけではないので誤解なさらぬように。
ただ、日本人男性の中では「1日1合未満」で死亡率が最も低く、それ以上は飲む量が多くなればなるほど死亡率が高くなることは確からしい。その後、約4万人の男性を12年間追跡したデータも分析したが、同様の結果だった。
健康で長生きするには、飲酒は1日1合程度までにとどめるのがいいだろう。
(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/03/22)