前回、飲酒習慣については、1日当たり日本酒にして1合未満というグループで、寿命前の死亡リスクが最も低くなったと書いた。では、がんのリスクはどうだろうか。
口腔(こうくう)、喉頭、咽頭、食道、肝臓、乳房のがんは、飲酒習慣のある人の方がなりやすいことが分かっている。主な原因がほかにある肝がんや乳がんは別として、飲酒習慣や喫煙習慣のない人がこれらの「飲酒関連がん」になることは少ない。
われわれのコホート研究では、飲酒関連のがんのリスクは、「1日当たり1合未満」の男性の場合、「たまに飲む」男性の2倍だった。酒量に応じてリスクは高まり、1〜2合で3倍、2〜3合で4倍、3合以上飲む男性で6倍。
たばこを吸わない人でも、飲酒習慣があると、飲酒関連がんのリスクは高くなり、3合以上で5倍になった。
飲酒関連でないがんについては、たばこを吸わない人では、飲酒量によるがんのリスクは変わらなかった。しかし、たばこを吸う人では、飲酒量が増えるにつれリスクが高くなり、3合以上だと「たまに飲む人」の約2倍になった。喫煙と飲酒の相乗効果が、明らかに示された一例だ。
飲酒によるエタノールは身体にとって毒だ。そのため、いろいろな酵素が解毒しようとするが、そのいずれかによって、たばこの煙に含まれる発がん物質が活性化されてしまうのでは−というのが一つの考えだ。つまり健康的に飲酒したければ、たばこを吸わないこと。また、周りのたばこの煙もできれば避けたい。
最近では、大腸がんも飲酒によってリスクが高くなると考えられている。われわれのコホート研究では、飲まないグループに比べ、1日当たり2合以上飲酒する男性でリスクが約2倍になった。ほかの日本人を対象とした疫学研究でも、飲酒によりリスクが高くなるとする研究が多い。
また、われわれのコホート研究で、男性飲酒者が何らかのがんになるリスクは、1日2合以上でたまに飲む人の1・4倍と上がりはじめ、3合以上で1・6倍になった。これを基に試算すると、男性のがんの13%程度が、1日2合以上の飲酒のために発生したことになる。大量飲酒者を減らすことは、たばこ対策に次ぐ、がん予防戦略の重要な柱となるだろう。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/03/29)