心臓と脳は、人の活動に最も重要な2つの臓器である。その活動の源となる栄養や酸素は血液で運ばれる。もし、動脈の血流が滞ったり、壁が決壊したりすると、組織の活動が停止する。心臓病と脳卒中は同じ循環器系の疾患であり、その危険因子には、喫煙や高血圧など共通のものが多く挙げられる。
欧米では死因のトップを心臓病が占める。日本では断然、脳卒中が多い。われわれのコホート研究で、飲酒と脳卒中の関係について調べてみた。
飲酒量によって、「飲まない」「ときどき飲む」「1日当たり1合未満」「1合程度」「2合程度」「3合以上」と6グループに分けた場合、「ときどき飲む」で最も脳卒中の発症率が低かった。そこで、このグループの発症率を1としたときに、他のグループがそれと比べてどれくらい高くなるかで、飲酒による脳卒中のリスクを表した。
脳卒中全体については、3合以上のグループで1・6倍になった。脳卒中は、脳の血管のトラブルがもとで発症する。血管が破れて起こる出血性のタイプと、血管がつまって起こる虚血性のタイプがある。このタイプ別に、飲酒との関係を調べた。
まず、脳出血については、「1合未満」ですでに1・8倍と上がり始め、酒量が増えるとリスクが高くなる傾向がみられた。アルコールには、血圧を上げる、血液を固まりにくくする作用があるので、脳出血を考えると飲まないほうが良いということになる。
次に、脳梗塞(こうそく)については、「1合未満」で40%低くなった。アルコールには、善玉コレステロールであるHDLコレステロールの血中濃度を上げる作用がある。しかも、脳出血ではマイナスに働いた血液を固まりにくくする作用が、梗塞についてはプラスに働いたとも考えられる。何も赤ワインでなくとも、脳梗塞に限れば適度な飲酒は予防的に働くようだ。
以上をまとめると、脳卒中予防のためには、お酒を飲むにしても1日平均3合を超えないこと。とはいっても、この飲酒量では、がんのリスクが高くなってしまう。さらに総合的な健康のためには、飲める人でも1日当たり1合にしておくことが肝要だ。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/04/05)