体形の客観的な基準となる肥満指数(BMI)は、体重(キログラム)を身長(メートル)で2回割って求める。国内では、BMI25以上で肥満グループに入るようだ。例えば「成人男性の3割が肥満」と報道される場合は、この基準が用いられている。
国際的には、25以上を過体重、30以上を肥満という。国際的に用いられる「肥満」が、さまざまな生活習慣病のリスクを高くし、寿命の短縮につながることは間違いない。そして、過体重も糖尿病、高血圧、高脂血症リスクにつながる。
では、がんとの関係はどうか? 特に、比較的肥満の少ないアジア人の集団を対象とした研究は少ない。
われわれのコホート研究では、約15年前の40〜69歳の男女が対象だが、BMI30以上の肥満の割合は男性で2%、女性で3%であった。国際的な基準での肥満は、日本人には非常に少なかった。
約9万人をBMIでグループ分けし、その後、約10年のがんの発生率および死亡率を、BMIが23〜24・9の標準体形グループと比べた。すると、がんの発生は、男性ではやせている方でリスクが高くなった。BMI21未満で高くなり始め、19未満で1・3倍になった。
一方、太っている方では、統計学的に有意なリスクの上昇はみられなかった。この傾向は、喫煙者でも非喫煙者でも、また、調査から早い時期でがんを罹患(りかん)した人を除いた場合でも認められた。
肥満関連がんとして、食道、大腸、乳房(閉経後)、子宮体部、腎臓のがんが挙げられる。いずれも欧米に多いがんで、欧米では実際に肥満というリスクをコントロールすることが、がん予防の優先課題で、その効果も大いに期待できよう。
ところが、日本では(1)これらの肥満関連がんが、まだ比較的少ない(2)肥満者の割合が少ない(3)喫煙など、肥満以外の要因が占める割合が大きいーなどにより、がんリスクの上昇がみられなかったものと考えられる。
日本で急増している大腸がんでも、発生リスクが高くなったのは男性のBMI27以上からで、前立腺がんでは関連はみられなかった。
日本では、肥満対策により予防可能ながんの割合は意外と少ないようだ。むしろ、やせすぎている人に警鐘を鳴らすべき状況である。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/05/03)