日本では糖尿病の患者数が増加している。健診などの機会に、糖尿病あるいはその予備群と診断される人は意外と多い。
インスリン抵抗性を改善するには生活習慣の改善が求められ、中でも運動習慣の定着により次第に筋肉量が増え、脂肪の減少が期待できる。筋肉量の増加でインスリンを取り入れる受容体が増え、脂肪が減ると抵抗性の原因となっていた物質が減る。こうして運動によって高血糖の改善だけでなく、高血圧や高脂血症も改善され、心臓病などの予防にもつながるとされている。
われわれのコホート研究で、糖尿病と診断されたことがある場合では、ない場合よりも、その後のがんリスクが2割ほど高くなるとの結果だった。臓器別でみると、男性では肝がん、腎がん、膵(すい)がん、結腸がん、女性では肝がんと胃がんで高くなることが観察された。
理由は一概に言えないが、糖尿病で起こる体内の変化が、がんのリスクを高くすることがまず考えられる。肥満や運動不足が糖尿病とがんに共通のリスク要因となることが考えられる。
肝がんや胃がんの場合には、その原因となるウィルスや細菌の感染がインスリン分泌にも影響を与えるという報告がある。逆に、肝がんに先行して起こる慢性肝炎や肝硬変が糖尿病の状態をつくっていることも考えられる。
それらの中でも運動不足という状態が、これらの疾患を底上げする大きな原因となっていると思われる。
車で出かけ、職場でも座ってばかりだと明らかに運動不足。心疾患などの理由で運動を制限されているのでなければ運動習慣を身につけたい。
どのように運動すればよいか。科学的根拠に基づいて作成された指針では、目安として、ほぼ毎日、合計60分程度の歩行など、適度な生活活動を基本として、週に1回程度は速歩など、汗をかくような運動をすることなどが示されている。
アンケート調査から、運動量を評価することは難しい。われわれのコホート研究では、日常の生活活動量や余暇の運動量などについて聞いているが、それにより、ある程度は運動量をとらえることができることも分かった。
心臓病や脳卒中など、いろいろな生活習慣病リスクと運動との関連を検討しているが、次回は、大腸がんとの関係について紹介したい。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/05/17)