「無作為化割付(むさくいかわりつけ)比較試験」は、予防や治療の効果を評価する、最も信頼性の高い研究方法だ。より厳密には「二重盲検(もうけん)」であることが求められる。
今ある標準治療と比べ、新薬の治療効果を評価する臨床試験では、必ずこの水準が要求される。2つの治療法を公平に比較するため、各グループの条件を、薬の中身以外は同じにして、治療結果にどれくらい差があったかを見極める。
がんの予防法でも、最終的に普及する前には原則、この水準が要求される。特に、サプリメントや薬剤を用いる予防法なら、この過程は必須である。
「無作為化割付」では、どの予防法が用いられるグループに入るかを、任意に決められない。くじ引き試験などといわれ、グループ間で初期的な条件が偏らない仕組みになっている。
「二重盲検」では、だれがどのグループに入っているか、参加者も研究者も分からない。そのため、外見がまったく同じプラセボ(偽薬)などが用いられ、だれがどのグループかという情報も第三者が管理する。こうすることで、本人や研究者の先入観が、結果に影響しないようにするわけだ。
そして、何年もかけ、がんの発生やその他の健康事象を追跡、グループの差を解析する。数字の単純な比較ではなく、うまく割り付けられなかった他の要因の影響を取り除くなど、専門的な統計学的検討が要求される。
ヒトと実験動物では、さまざまな違いが生じる。ヒトへの試験では倫理的に問題をはらんだ計画は実施してはならなない。対象を多く集めるなど、相当のコストを払わないと、科学的と呼べる結果には到達できない。
がん予防では、ベータ・カロチンやビタミンEを用いた、数万人規模の研究が複数実施されてきた。いずれも、予防効果は証明されず、むしろ高用量ではリスクになるという結果だ。
ホルモン剤を用いた研究では、乳がん予防効果は証明できたが、子宮体がんや肺塞栓など、他の病気のリスクが上がった。がん予防のために有効かつ安全なサプリメントは、いまだに見つかっていないのが現状だ。
(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/06/07)