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抗炎症剤による大腸がん予防

 アスピリンといえば、誰もが知っている非ステロイド性抗炎症剤。鎮痛・解熱や血小板の凝集反応を抑える作用を持つ。副作用として消化管出血があることでも知られる。血を固まりにくくする作用により、少用量のアスピリンが心筋梗塞(こうそく)予防に有効なのは疑いない。

 一方で、高用量のアスピリンやその他の非ステロイド系抗炎症剤を長期間常用している人は大腸がんのリスクが低いと、欧米の複数のコホート研究で報告されている。ただし、心筋梗塞予防に用いられる量では、少なすぎて効果がないことも分かった。だからといって高用量だと、消化管出血のリスクに加え、脳出血のリスクも高くなる。

 最近、こうした副作用の少ない「COX−2選択的阻害剤」と呼ばれる非ステロイド系抗炎症剤が開発され、大腸がん予防に明るい光が見えたかに思えた。そこで、大腸がんの先行病変である大腸腺腫が見つかった人を対象に、COX−2選択的阻害剤と偽薬を使って比較試験が行われた。

 約3年間、2000人を追跡した3つの試験の結果が2006年に報告された。いずれもCOX−2選択的阻害剤で腺腫の再発が30%程度、進行性腺腫の再発が40%程度抑えられた。半面、重度の心血管疾患のリスクが上がった。他の研究も合わせると、リスクは約2倍程度。血小板の凝集が促進され血栓傾向が高まったか、あるいは血管収縮が起こった結果などと考えられている。

 仮にCOX−2選択的阻害剤により50%の大腸がん発生が抑えられたとしても、心血管疾患が約2倍に増えたら、大腸がんの数倍も心血管疾患が発生する欧米では、不利益が利益を上回る。

 これらのエビデンス(科学的根拠)に基づき、予防医学の専門家で構成された米保健社会福祉省の特別委員会が2007年3月、「平均的なリスクの人に、大腸がん予防のために、アスピリンやその他の非ステロイド系抗炎症剤を用いるべきではない」と勧告した。ただし、家族性大腸腺腫症など、遺伝的にリスクが高い人では、利益が不利益を上回る可能性がある。

 予防のための対策は、ひとつの病気だけを考えるのではなく、他の病気や生活の質など総合的に評価して行う必要がある。また、まれにしか起こらない病気を予防する対策は効率が悪い。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)

(2007/07/05)

 

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