健康のためといっても生活習慣の改善は難しい。それより、ビタミン剤や薬剤などでがん予防や心臓病予防ができないかと思うのが人情だろう。実際、ビタミン剤は抗酸化作用などにより、がんや心臓病の予防に効果があると、欧米で広く普及している。だが、必ずしも科学的根拠があるわけではない。
抗酸化ビタミンについて、多数の臨床試験の結果を集計、死亡リスクを再評価した研究結果が今年、報告された。ベータ・カロチン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、セレニウムのいずれか1つ、あるいは組み合わせによるサプリメントの効果を、過去の68の無作為化比較試験から約23万人分のデータを用い、総死亡リスクとの関連が調べられた。
サプリメントも、生活習慣同様、ある病気のリスクは減っても、別の病気のリスクが増えることもありえる。そのため、総死亡率の低さが健康の指標に用いられる。
その結果、いずれも脂溶性のベータ・カロチン、ビタミンA、ビタミンEのサプリメントによって、死亡リスクはわずかだが統計学的に有意に増加。水溶性ビタミンのビタミンCとセレニウムでは、リスクの増減は見られなかった。
ベータ・カロチン、ビタミンA、ビタミンEは体内の脂質部分に溶け込んで蓄積されると、非常に高濃度になる。そのような条件下では、活性酸素の産生を高める方向に作用したり、抗酸化や解毒にかかわる重要な酵素の働きを阻害したりするとの実験報告がある。また、血液の凝固系への阻害作用で出血しやすくなることも考えられ、かえって死亡率が高くなる可能性がある。
ビタミンEの用量と総死亡率の関係では、19の臨床試験から14万人分のデータを再集計して評価した研究がある。それによると、比較的高用量(1日400国際単位以上)のビタミンEを用いた試験で総死亡率が高かった。一方、低用量では、死亡率に差がないか、やや低下傾向だった。
先に紹介したベータ・カロチンの例と同様に、最適な用量の見極めが重要であることが分かる。多ければ多いほど良いのではなく、もともとの血中濃度やリスクに応じた個別対応が必要だが、現時点では、最適な処方を行えるだけの科学的根拠がない。
ビタミンCとセレニウムは、どのようなグループでどのような作用が見られるのか調べ、根拠を確かにする必要がある。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/07/12)