DDT・ダイオキシン・PCBを含む有機塩素系化合物や植物性エストロゲンなどの「内分泌かく乱物質」と子宮内膜症の関連が疑われ、これまでに数々の研究が行われてきた。
有機塩素系化合物は地球環境の中で魚に蓄積される。日本人を対象にしたわれわれの研究でも、魚をたくさん食べる人ほど血中濃度が高くなることが示されている。
アカゲザルの実験では、ダイオキシンにより子宮内膜症ができた。しかし、乳がんや子宮体がんとのかかわりでも知られるように、エストロゲンに似た物質の体内での作用の仕方は複雑だ。
子宮内膜症は不妊症の主な原因の1つ。月経痛などを来たし、生活の質(QOL)を低くする。われわれは、有機塩素系化合物が子宮内膜症の発症と関連しているかを、東京慈恵会医大などと共同で、不妊症で受診した女性139人に協力を得て検証した。
結果は予想に反して、ダイオキシン類の血中濃度の低いグループに比べ、高いグループで進行内膜症のリスクが低かった。
薬物代謝にかかわる体質を決める遺伝子タイプ別に分けると、あるタイプで特にこの傾向は強まった。体質によって、ダイオキシン類の濃度が高い場合に子宮内膜症の進行が抑えられる可能性があることになる。
ただ実際には、複数の環境的な要因と遺伝的な要因の複雑な絡まり合いで、総合的に子宮内膜症のリスクが決まると考えられる。
それにしても、内分泌かく乱物質は一部の女性で子宮内膜症の進行に予防的に働くのだろうか。この病気の原因を追究するには、さらに幅広い対象で細かい分析を行う必要があるが、われわれの研究は限られた対象の一時点での状態を見ているにすぎない短所がある。
大規模な調査を行い、最初に血液や尿、食事調査などの試料を採取し、内視鏡による診断を行い、その後長期追跡する研究が、大変ではあるが、望ましい。
今回のわれわれの研究やこれまでの他の研究者のデータを見る限り、魚をよく食べるなど、日常生活の範囲で有機塩素系化合物のレベルが比較的高い女性でも、そのために子宮内膜症のリスクが高くなるということはなさそうである。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)
(2007/07/26)