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ピロリ菌感染と胃がん

 1983年、オーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルは、人の胃に生息する細菌を取り出し、その培養に世界で初めて成功したと報告した。ヘリコバクター・ピロリである。2人はこの業績で2005年にノーベル賞を受賞した。

 ピロリ菌が急性胃炎を起こすことは、研究者自身による人体実験で示された。さらに、除菌療法で病気の再発予防ができることが分かった。ストレスが主な原因と信じられていた慢性胃炎や消化性潰瘍(かいよう)の原因はピロリ菌であった。

 1991年に、欧米のコホート研究の保存血液を使い、胃がんになったグループと、ならなかったグループでピロリ菌の感染を示す血清抗体を比べた3つの研究が発表された。いずれも、胃がんになったグループで研究開始時の抗体陽性率が高いことが示された。これらの研究に基づき、94年、国際がん研究機関(IARC)は「ピロリ菌感染の胃に対する発がん性は確実である」と評価した。

 当時の日本には、同じ方法でこの関係を検証できる大規模コホート研究がなかった。そのため、胃がんと診断された患者の血液で抗体が調べられたが、意外にも、胃がんでないグループと比べて、陽性率に差がないか、むしろ低いという結果が多かった。

 理由は、胃がんの先行病変とされる萎縮(いしゅく)性胃炎があると、ピロリ菌が住めなくなり、抗体が検出されなくなるからだ。ピロリ菌と胃がんの因果関係を検証するには、やはりコホート研究で最初に血液を採取し、後の胃がん発生との関連を調べなければならない。

 90年に開始したわれわれのコホート研究では、10年以上追跡して保存血液の抗体との関連を調べ、2006年に論文発表した。胃がんの件数は過去最多の511例になった。胃がんにならなかったグループでも90%が陽性だったが、胃がんグループでは99%。ピロリ菌感染による胃がんリスクは、非感染者の約10倍という計算になった。

 この研究結果からは、ピロリ菌感染は胃がんの確実な原因で、感染していなければ胃がんになることはほとんどないと思われる。しかし、現在50歳以上の日本人の90%はすでに感染しており、胃がんになるのは、そのうちの一部に過ぎない。そう考えると、数千万人と推定されるピロリ菌感染者を洗い出し、胃がん予防策として除菌するのは、現実的とはいえないだろう。

(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)

(2007/08/02)

 

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