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ピロリ菌と塩分の多い食品

 ピロリ菌が胃がんの原因の1つであることは疑いない。感染ルートはよく分かっていないが、感染率は概して先進国で低く、途上国で高い。

 1990年ごろにわれわれが13カ国の17地域で実施した調査では、感染率が最も高かったのは、日本のある地域で55〜64歳で85%、25〜34歳で62%。先進国中では例外的に高い。ただ、最も低い米国でもそれぞれ34%、15%。衛生状態が悪いと、経口感染するとされるが、米国でもそれなりの感染率だ。

 そこで、ピロリ菌に感染したままになる過程には、特有の食習慣があるのではないかと考えた。研究を進めると、漬物など、塩分の多い食品の摂取頻度が多いグループほど、感染率が高かった。塩分の多い食品は胃粘膜を保護する粘液層を破壊、ピロリ菌がつきやすい環境を作るという解釈ができる。塩分の多い食品を控えて、持続的な感染を防げれば、胃がん予防にもつながりそうだ。

 一定集団を長期間、追跡する「コホート研究」で胃がんとの関連を調べたところ、塩分の多い食品の摂取頻度が多いグループほど胃がんリスクが高かった。ほとんどがピロリ菌感染者であることを考えると、感染に塩分の影響が加わり、胃がんが発生しやすくなると考えられる。

 では、感染した人が除菌すれば、がんの予防はできるのか。除菌するグループとしないグループをくじ引きで決めて効果を比較する「無作為化比較試験」では、萎縮(いしゅく)の程度や前がん病変の改善効果を認めた研究はあるが、これまでのところ、胃がん発生率は差異がない。長年の感染で胃に不可逆な変化が生じ、除菌しても手遅れの可能性を示唆する。その意味で、若年層の除菌は胃がん予防に有用な可能性がある。

 一方、除菌するとかえって逆流性食道炎や胃の上部や食道下部のがんのリスクが高くなるという指摘もある。除菌による危険性(リスク)と利益(ベネフィット)、恩恵を受けられるタイプの人についてのデータが待たれる。

 ただ、ピロリ菌の感染率からだけでは、胃がん発生率の男女差、地域差、そして世界的規模での時代的減少は説明できない。喫煙、塩分の多い食品、果物の低摂取が、胃がんリスクを上げることもほぼ疑いがない。中高年のピロリ菌感染者はまず、禁煙、減塩、果物の摂取を増やすこと。これにより、胃がんリスクが下がるだけでなく、他のがんや循環器疾患・糖尿病の予防にもなる。また、年に1回は胃がん検診を勧める。(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 津金昌一郎)

(2007/08/09)

 

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