産経新聞社

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安心して働けない!! 日雇い派遣の社会保障(上)


 □失業手当

 ■印紙で証明、給付可能

 1日とか数日、短期契約で製造現場などに派遣される「日雇い派遣」。違法派遣で事業者が摘発されるなど、不安定なうえ、条件を満たせば適用される雇用保険や年金なども、適用されていないのが実態です。(佐久間修志)

 東京都内に住む小島仁志さん(43)=仮名=は、9年前から日雇い派遣で生計を立てている。以前は名古屋で日雇い派遣の登録をしていたが、5年ほど前から、東京近郊を現場に、複数の事業者に登録して、仕事の紹介を受けている。

 「名古屋時代には、毎日仕事が入っていたこともあった」という小島さん。「あとは時給さえ高ければ生活は安定する」という読みだったが、東京近郊に来てからは思ったように仕事が入らない。少ないときは、月に10日働くのがやっと。現場までの交通費などを自腹で支払うと、生活費は4万円ほどしか残らなかった。

 「ほとんど失業状態だった」という小島さんだが、「その時は雇用保険のことなんか知らなかったし、会社からは何の説明も受けなかった」。家賃の支払いが遅れてアパートを追い出され、ネットカフェや24時間営業のハンバーガーショップなどで一夜を過ごす日々が続いた。

 「当時にはもう戻りたくない」と振り返る小島さんだが、「日雇い派遣では、仕事がない時期もありますから、不安は尽きません」。

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 日雇い派遣労働者も、加入条件を満たせば、雇用保険に加入できる。仕事がないときには、失業給付を受けることも可能だ。しかし、実際にはその恩恵を受けていない人が多い。

 厚生労働省によると、労働者が(1)同じ会社に1年以上、引き続き雇用されると見込まれる(2)1週間の所定労働期間が20時間以上−の2条件を満たせば、事業者は労働者を雇用保険に加入させる義務がある。短期契約の派遣社員でも、原則は同じだ。

 だが、日雇い派遣の労働者の場合、複数の派遣元から仕事を紹介されることが多いため、事業者1社では労働者が雇用保険の加入条件を満たすのか否か判断できない。そのため、事業者が労働者を被保険者として届け出ない実態がある。

 実際、日雇い派遣大手のグッドウィルが今年1月から事業停止を受けた際、全国の労働局には3月までの2カ月間に約600件の電話相談が寄せられた。「これから仕事をどうすればいいのか」など、不安を訴える声が多数を占めたという。

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 こうした状況を受け、厚労省は昨年9月、同じ日雇い労働者でも、事業者に直接雇用される人に適用される「日雇い雇用保険」を、派遣にも適用。一定の条件を満たせば、失業手当の給付を認める方針を打ち出した。

 この雇用保険では、働いた日ごとに印紙を手帳に張り、「一定期間働いてきた実績」を証明。失業したときには、手当が給付される。厚労省は「この保険はもともと、毎日働く場所が違う人にも、雇用保険を適用するための制度で、日雇い派遣にも当てはまると判断した」と説明する。

 2カ月間で26枚以上の印紙が張られれば、これまでの賃金に応じて、翌月から最大1日あたり7500円×17日分の失業手当が支給される。月収に換算すれば、最大12万7500円になる。

 印紙を張る日雇い雇用保険の手帳は、労働者が自分でハローワークに申請して受け取る。日雇い派遣元の事業者もハローワークで印紙購入通帳の交付を受け、郵便局で印紙を購入。就労日ごとに労働者の持参する手帳に印紙を張る。印紙代は保険料として労使で折半する。

 厚労省は4月から適用の日雇派遣指針でも、事業者に同雇用保険の手続きを行うよう求めている。

 小島さんも今年1月、この雇用保険の存在を知り、2月に手帳を入手した。日雇い派遣労働者としては第1号の申請という。

 3月だけで13枚の印紙が張られた。4月に13枚を集めれば、5月以降に仕事がなくても、失業手当の給付を受けられる。「前例を作れば、ほかに同じように日雇い派遣で働いている人も失業手当を受けやすくなる。そのためにも受給資格が得られるよう頑張りたい」と意気込む。

 日雇い派遣の問題に詳しい慶応大学商学部の清家篤教授は「雇用の形態は多様化しているが、どんな雇用形態かにかかわらず、労働者に与えられている権利ならば当然、日雇い派遣にも与えられるのが筋」と話している。

(2008/04/15)