
武田さんが派遣元事業者から受け取った厚生年金保険の加入案内。大きめの文字で書かれた「月払い」が四角で囲まれて強調されている(一部画像処理しています)
□厚生年金
■給与月払いがハードル
派遣期間の短い日雇い派遣労働者でも、一定の条件を満たせば、厚生年金に加入できます。ただ、将来への安心を得られる半面、日々の賃金で生活を支える日雇い派遣の労働者の場合、まとまった保険料を納めると、目前の生計を維持できないという困難さもつきまといます。(佐久間修志)
「(年金や健康保険の)保険料の計算ができないため、お給料のお支払いが月払いとなります」
日雇い派遣の事業者から送られてきた厚生年金保険の加入案内。日雇い派遣で働く福岡県の武田奈緒子さん(40)=仮名=は、一回り大きめの文字で強調された「月払い」のフレーズに、理不尽さを覚えた。
「給与が月払いになると、お金がないときに困る」という武田さん。以前から厚生年金には入りたいとは考えていたが、賃金が月払いになる不便さを思うと加入できない。「将来の安心は得たいが、その時は目先の生活を考えるしかなかった」という。
武田さんは人間関係の悩みから、以前勤めていた会社を退職。平成16年10月から、日雇い派遣事業者に登録した。当時は次の就職先が決まるまでのつなぎのつもりだった。だが、仕事は見つからず、翌年4月からは日雇い派遣が“本職”になった。
それからは働くペースもアップ。3月に6日だった仕事日は4月に20日を超えた。そして数カ月たった同年の夏、事業者から厚生年金加入の通知を受け取った。
同じように働く友人を見渡しても、「賃金が日払いでなければ生活できない」という人は多い。「派遣元は(年金加入の)通知を出してはいるが形だけ。あれでは『厚生年金に入るな』と言っているのと同じですよ」
◇
厚生年金に加入する要件は、「1日または1週の労働時間、および1月の労働日数が正社員の4分の3以上」。「日々雇い入れられる」労働者は厚生年金の適用除外だが、1カ月を超えて引き続き雇用される場合は、被保険者となる。だから、日雇い派遣労働者でも、正社員の4分の3以上の労働時間があり、1カ月を超えて働いていれば、厚生年金に加入できる。
ところが、日雇い派遣労働者の厚生年金加入には、別の意味で高いハードルが存在する。それは、労働者が加入資格を得た場合、日払いだった賃金が翌月から月払いを余儀なくされ得る点だ。
厚生労働省年金課によると、日雇い派遣労働者が厚生年金の加入条件を満たした場合、同じ事業者内で就労条件の近い他の労働者を目安に、保険料の基準となる「標準報酬月額」を算定する。それを元に保険料を決め、事業者が毎月同額で納める。
保険料は、派遣元事業者が労働者の給与から源泉徴収(天引き)できる。だが、日雇い派遣の場合、賃金は日払いだが、1カ月に何日働くか不透明だから、1日あたりの天引き額は決まらない。だから、事業者は賃金を月払いにするしかないというわけだ。
賃金の「月払い化」を避けようと、厚生年金加入を見合わせる日雇い派遣労働者は多い。日雇い派遣で働く東京都内の男性は、「賃金が日払いだからこそ、条件が悪くても今の仕事で我慢している。月払いでいいなら、日雇い派遣をとっくに辞めている」とつぶやく。
ある大手日雇い派遣事業者によると、今年2月に日雇い派遣で仕事をした労働者のうち、厚生年金の加入者は28%。登録型派遣労働者全体で厚生年金の加入割合が78・2%(17年調査)であることと比べると格段に低い。
◇
しかし、「加入資格者を厚生年金に加入させることは事業者の義務」(厚労省)でもある。違反した事業主には、「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられる。
加えて、「年金保険料はあくまで事業主に課しているもの。労働者への賃金の支払い方法に関しては、労使双方の話し合いや取り決めに応じて決められるはず」(厚労省)。このため、給与の日払いを可能にする動きも出ている。
武田さんの登録している派遣元事業者は昨年3月から、厚生年金に加入している日雇い派遣労働者に、「給与の約8割を日払いにする」という源泉徴収方式を採用している。武田さんもこれを活用し、昨年9月に晴れて厚生年金に加入した。
武田さんは「老後の年金額は、それほど多くはないでしょうけれど…」と言いながらも、「少し将来への安心感が出てきた」と声を弾ませている。
(2008/04/17)