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帰農 第二の人生の種まき(1)担い手は団塊世代 

自宅のログハウス前で愛犬「イチロウくん」と入江さん夫妻。雪に覆われた畑は、春から初夏にかけてアスパラガスが育つ=長野県木島平村(撮影・中川真)



 ■主な生活費は年金で

 都会で働いてきたサラリーマンが田舎に移り住み、野菜づくりなどに取り組む「帰農」が注目されています。「自然を満喫し、土と触れ合って生きたい」という動機が多いようです。農地の荒廃に悩む地方自治体も、団塊の世代を「担い手」として期待し、誘致に躍起になっています。(中川真)

 長野県北部、昨冬は2メートル超の積雪があった豪雪地の木島平村。ここでアスパラガスなどを作っている入江勝さん(63)、重野さん(58)夫妻は、2人とも埼玉県で小学校の教員をしていた。4年前、勝さんの定年を翌年に控えて退職し、ログハウスを新築して移り住んだ。埼玉県の自宅には娘が住んでいる。

 「有機野菜を自給自足してみたい」

 「退職後は『元教員』という堅苦しさと無縁なのびのびした暮らしがしたい」

 食の安全に関心が深かった入江さん夫妻は、各地の「ふるさと体験」などにも参加した。多くの物件の中で「アスパラ畑つき500坪」という、この丘陵地が気に入った。四方に山々を望む美しい高原で、近くには診療所もある。

 移住後は、農家の人たちから土づくり、野菜づくりの基本を学び、トマト、ナス、ニンジンなどを手がける。最初は「友人に産直野菜を送って喜んでもらえれば」と、家庭菜園の延長のような感覚だったという。

 しかし、実際の田舎暮らしは結構忙しかった。夏は雑草取り、冬は雪かき。作業を黙々と続ける夫妻に、農家の人たちから、「アスパラをJAに出したら」「うちの畑も代わりにやってよ」と声がかかりだし、夫妻は「農」の世界にさらに一歩踏み込んだ。

 「地元の方は私たちの働き方を見て、『任せられる』と認めてくださったんでしょう」と勝さん。重野さんも「地域とのつながりも作ってくれたアスパラに感謝ですね」と目を細める。

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 こうした例は多い。隣の中野市で築208年という古民家を改修し、2年前から住んでいる川島直樹さん(54)、幸子さん(51)夫妻だ。今春から高齢になった農家の人の代わりに、150本のブルーベリー栽培に取り組む。

 川島さんは東京でサラリーマンをしていたが、過労で倒れたのをきっかけに、50代で早々と退職。共働きだったこともあり、ふたりの退職金や預貯金で好きなスキーと古民家の暮らしを満喫していた。ところが、地域との信頼関係が深まり、「何かやった方がいいよ」とブルーベリー栽培に強く誘われた。

 川島さんは「『晴耕雨読』にあこがれ長野に来ましたが、生きる方向が少し変わったような気がします。恩返しのつもりで頑張ります」と話す。

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 田舎暮らしにあこがれる人が増えている。一昨年の内閣府調査では、都市に住む50代の28・5%が「農村などに定住してみたい」と回答した。昨年10月、NPO法人ふるさと回帰支援センターが東京・大手町で開いた「ふるさと回帰フェア」には、前年の倍近い約1万5000人が来場した。

 帰農の中心になりそうなのは、700万人という団塊世代。子供のころから競争にさらされた団塊世代にとって、農村は「ストレスを癒やし、日本人のDNAを刺激する」(同センターの本多幸雄事業部長)。

 逆に、農村では高齢者が守ってきた農地が担い手のないまま荒廃している。特に、中山間地では60歳でも若手だ。退職金や年金で“自立”できるメリットを生かして、無理なく農地を維持してもらおうと期待は高まる。

 入江さん夫妻も生活費は年金。「特別な出費がなければ十分に間に合う」という。仲間同士で農作物のおすそ分けもあり、食費はわずかだ。寒さが厳しい冬も、リンゴ農家からもらう古木で炊く薪ストーブが家中を暖める。

 一方、アスパラなど、農作物による年間収入は25万円程度。堆肥(たいひ)代や資材代など、農機の減価償却費を差し引くと、まだ赤字だという。勝さんは「作物の出来や相場で収入が変わる厳しさを実感しました」と話す。

 「JA総合研究所」の昨年の調査でも、田舎暮らしで長野県内に移住した78人の約56%が、主な生活費は公的年金と回答している。入江さん夫妻が無理なく、野菜づくりができるのも、年金世代だからこそだ。

 60歳前後の45世帯に、農地も使える物件を仲介してきた「JA北信州みゆき」の大塚幸雄課長代理は、田舎暮らしを目指す人に「安易な就農は勧めません。しっかりした目的を持って、無理のないライフプランを決断するのが、失敗しないコツです」と強調する。

 大塚さんは「寒さが厳しい冬も知ってほしい」と話す。同JAは2月、そば打ちや帰農者の自宅訪問などを盛り込んだ1泊ツアーを行う計画だ。

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 ■「民家、畑つきで300万円台」も

 「JA北信州みゆき」の話では、同地域の物件は、数百坪の畑の使用権(農地法で所有権は簡単に移転できない)と古い民家つきで、500万〜700万円が一般的。300万円台のものもある。

 民家は最低でも水回りなどの改修が必要なので、更地の方が数百万円高い。ここにログハウスなどを建てれば、建築費が加わり1000万円台となる。

(2007/01/23)

 
 
 
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