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帰農 第二の人生の種まき(2)農家で実習

『師匠』の大野達弘さん(左)から、ホウレンソウ作りのアドバイスを受ける奥山猛さん=福島県二本松市(撮影・中川真)



 ■地域にとけ込むために

 初めて「農業をやってみよう」という人にとって、栽培の技術だけでなく、都会とは勝手の違う暮らしが成り立つかどうかも不安なものだ。福島県で初心者に「農」の生活のイロハを実地で教える男性と、ここでの研修を終えて就農した人を訪ね、スムーズに農村生活に入るコツを聞きました。(中川真)

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 福島県の中央部、二本松市の東和地域(旧東和町)は、クワのお茶が名産という阿武隈山系の静かな山里だ。

 この地域の活性化に取り組むNPO法人「ゆうきの里東和」の理事で農業を営む大野達弘さん(52)は約7年前から、5組の就農を手助けしてきた。住み込みを希望する人に、自宅の蔵の2階和室を開放。春の種まきから秋の収穫まで、1シーズンの農作業を実地で教える。

 “生徒”は50代が多いが、30代の農林水産省の元官僚夫婦で、住み込みを経て定住したケースもある。

 「草刈り機の刃の研ぎ方とか、トラックのロープのかけ方とか、基本的なことをすべて教えます」。作業のかたわら、農業経営や販売の実情も説明。就農のイメージを具体化していくという。

 大野さんは参加者から滞在費や食費、研修費はとらない。寝食をともにする、まさに「師弟」の生活だ。

 近所の農家の人と付き合いがはじまれば、「みんな、嫌だってほど教えてくれますよ」。井戸端会議は都会も田舎も同じなのか、女性の方が早くなじむという。

 こうして地域を理解しながら、住むところや畑を決めていく。大野さんも、後で困らないように近隣住民との相性も考え、アドバイスをする。

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 研修が終われば、いよいよ就農だ。大野さんは「夫婦で月10万円で暮らす生活」を勧めている。「農業収入が5万円、新聞配達や福島市での産直野菜即売などのアルバイトで5万円。都会の感覚を捨て、質素に暮らせば大丈夫。それが地域にとけ込むコツでもあります」。山あいで農耕地も広くないから、「多くの品目を少しずつ育て、自給的に豊かな暮らしをするのがふさわしい」と、大野さんは言う。

 都会から退職金や預貯金をたっぷり持ってやってきて、「物価の安い田舎で優雅に暮らそう」という発想が“最も浮く”のだそうだ。

 目的がなく、「こういう所でぼぉっとしたい」というタイプも難しい。「1週間で飽きてしまいますよ」と話して、考え直してもらった人もいるそうだ。

 大野さんは住居購入にも慎重だ。「借家は家賃5000〜1万円程度(要補修)でもある。そうやって暮らしながら、地域の農家と信頼関係ができれば、好条件で物件を譲ってもらえたりするものなんですよ」。

 何しろ、約2000世帯(人口約8000人)の1割が65歳以上だけの高齢者世帯。すでに空き家が70軒もある。農地だけでなく、地域の荒廃を防ぐために、「信頼できる人に住んでほしい」と思う住民は多い。

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 平成14年に大野さんのもとで研修し、16年4月に就農した奥山猛さん(62)は、自動車関連会社のサラリーマンだった。55歳で関連会社に出向。「自然の中であくせくせず、自由に働ける」と家庭菜園で親しんだ畑への思いを強めていった。

 当時はまだ少なかった「帰農」の情報を集める中で、大野さんの存在を知り、「体力のあるうちに」(奥山さん)と58歳で退職。単身で研修し、就農した。「車の運転も草むしりもできない」という奥さんは、子供と都内の自宅に残した。

 現在住んでいるのは、築30年のリフォーム済みの平屋。「以前住んでいたおばあちゃんが、きれいに使っていたので、助かりました」と奥山さん。

 さらに、納屋兼用のビニールハウスを建て、中古のトラクターなど最低限の農機もそろえ、計400万円で第二の人生をスタートさせた。

 畑は5反歩(約1500坪)を年間5万円程度で借り、キュウリを中心に多種の野菜を手がける。朝6時半から畑に出て、夕方まで働く。その後のビールがうまい。奥山さんは「喜びを感じるのは、計画通りにスムーズに収穫できたときですね」と話す。

 福島の生活は「気楽で自由。体調もいい」という奥山さん。

 年金の半分は妻子に送金し、「2年目に30万円になった」という農業の実収入を加えて暮らす。不自由はないが、東京に帰る交通費がなかなか捻(ねん)出できないのが目下の悩みという。

 定年前後の帰農では、妻が「わが道を行く」ケースも多い。最終回は、やはり単身で帰農し、「2地域居住」という形で自宅との往復を繰り返す男性を紹介する。

(2007/01/24)

 
 
 
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