■進まぬ団塊男性の参加
■移送サービスなどに“道”
行政のサービスや制度で担えない分野で活躍する有償ボランティア。関係者は、定年などでシニアライフに入る「団塊の世代」を取り込もうと意気込んでいますが、男性の参加者はなかなか増えません。そうした中で、「男性向き」と脚光を浴びつつあるのが、自力での移動が難しい高齢者や障害者を自家用車で運ぶ「福祉有償輸送」のボランティアです。(中川真)
「タテ型の会社生活が体に染みこんだ男性は、リタイアしてもヨコの仲間づくりや“地域デビュー”が下手で、孤立しがちです。有償ボランティアに男性を呼び込めるように、組織内に男性が好む趣味のサークルも作るなど、もっと工夫が必要かもしれませんね」
前回紹介したNPO法人「シーズネット京都」(京都市上京区)の仲瀬素市さん(64)が指摘するように、多くの場合、有償ボランティアの主役は女性だ。家事などの支援が多いことも、その大きな理由だ。
シーズネットでも、約30人のボランティアのうち、男性はわずか3人。女性たちからは「高い窓を掃除するときなど、『男性がいると助かるのに…』と思います」(勝山満智子さん)との声も聞かれる。
「ほとんどの男性は仕事を辞めると、急に見る影を失ってしまう。やることがなく、1日に何回も犬の散歩をしようものなら、歩かされる犬だって迷惑ですよね」(仲瀬さん)。
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こうした男性も入りやすそうな活動に、自家用車を使い、高齢者や障害者を送迎する「福祉有償輸送」というボランティアがある。バスやタクシーの事業者でないのに、お金をもらって人を輸送するのは通常、違法だが、構造改革特区での取り組みを経て、政府は昨年10月、道路運送法を改正。NPO法人などが参入できるようになった。
横浜市青葉区の近野明さん(67)は、区内のNPO法人「移動サービス アクセス」に所属し、依頼に応じて週数回、運転のボランティアをしている。
「自分で移動できない人にとって、外出はとても楽しいこと。私の車に乗ってもらい、いろんな話をしながら、ウキウキした表情を見るのは楽しいですね」
通院やデイケア施設の往復、買い物への同行など用途はさまざま。「大部分は30分程度の依頼ですが、都心に観劇に行きたいという方もいます」(アクセスの石山典代事務局長)。
対価は仕事により異なるが、30分間、10キロ程度の依頼だと、利用者から1200円(運賃、送迎料金、介護料を含む)の利用料をもらい、このうち900円がボランティアにわたるという。近野さんの場合、ガソリン代も含め月2万5000円程度の収入になる。
取材をした日も、70代の女性をデイケア施設から自宅に送った。ボランティアの身分を示す名札を首からかけ、車には福祉有償輸送のステッカーがはられている。
道中は季節の植物の話に花が咲く。途中で女性が「マッサージ店に寄りたい」と言い出すアクシデントもあったが、予定より10分程度の遅れで、自宅に送り届けた。玄関先に女性の家族がそろって出迎え、「いつも本当に助かっています」と労をねぎらった。
「20年前、都内から団地に引っ越してきた」という典型的なベッドタウン族の近野さん。若いころは、陸上自衛隊の輸送部隊に所属。伊勢湾台風(昭和34年)の際には、道なき道を1人で支援物資を運んだ。その後、企業の役員運転手を長年務め、62歳で退職した。
近野さんは、スムーズに“地域デビュー”を果たした。「『体が動くうちに何でもやろう』と、いろんな活動をしているので、1日に3回は着替えますね」と笑うが、最初のきっかけは、在職中に参加した団地の庭の手入れのボランティアだった。現役時代からの参加が成功のカギだ。
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「乗降時の介助など、体力が必要な場面も多いですし、買い物の同行後に、重い荷物を団地の上の階まで運んであげることもあります。男性がどんどん進出できるボランティアだと思います」
こう話す近野さんだが、「どうせヒマなら一緒にやろう」と友人を誘っても、「おれはいいよ」と、なかなか乗ってこないという。
最大の理由は、他人を車で運ぶことの責任だ。NPO法人による福祉有償輸送は通常、ボランティアが車を持ち込み、ボランティア自身が任意の自動車保険に加入してリスクに備える。
また、法改正でボランティアに対し、2日間の講習で運転技術や乗降介助などを学ぶことが義務づけられた。そのためか、「世間の注目を浴びている割に、ボランティアが増えていない」(石山氏)という。安全を守りながら、ボランティアの裾野を広げる知恵が求められている。
(2007/04/11)