■地元商店街と連携　助け合いから活力へ

　地域の助け合いである有償ボランティアの取り組みを通して、「街に活気を呼び戻そう」という動きもあります。東京都品川区の「中延（なかのぶ）商店街」では、アーケードの空き店舗にＮＰＯ法人が拠点を設け、趣味の教室や住民の困りごとに対応しています。ボランティアをした人には、対価として商品券を出すなど、商店街との連携も進んでいます。（中川真）

　「個人では、場所を確保したり、参加者を集めるのが大変です。『街のコンシェルジェ』がおぜん立てをしてくれるというので、やる気になったんですよ」

　長年、官庁の食堂で調理師をしていた鳥飼芳恵さん（６３）は、経験を生かして、昨年から９回にわたり、高齢者に家庭料理を教えた。

　先月の最終回のメニューは親子丼などで、男性２人を含む８人が参加した。鳥飼さんが味付けのコツを伝授すると、「なるほど。毎回、必ず学ぶことがあるわ。さすがねえ」と声があがる。

　料理教室の会場は、東京都品川区の「中延商店街」の一角にある「街中サロン」。このサロンと隣接する「街のコンシェルジェ」（街コン）は、平成１６年秋にできた地域の拠点だ。

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　「庭の植木を剪定（せんてい）してもらえないか」

　「部屋の電球を換えてほしい」

　「街コン」は、ホテルで宿泊客の相談や依頼を手早く処理する「コンシェルジェ」のように、地域の高齢者のちょっとした困りごとに、主に５０代以降の有償ボランティアが対応する。

　発案したＮＰＯ法人「バリアフリー協会」の沢田藤司之専務理事（６３）は「６０代はまだ若い。『団塊の世代』など、地域に戻ってくる人たちが『得意芸』を発揮して、助け合える場をつくりたい」と話す。

　現在、サービスを受けたり、有償ボランティアを担う「街コン」の会員は、約７００人（平均年齢６４・５歳）。中延商店街の半径７００メートルのエリアに住んでいる人たちだ。

　困りごとの支援だけでなく、鳥飼さんの料理教室のように、街コン主催の「楽習教室」で教えるのも、有償ボランティアの活動。「専門家でなくても大丈夫。カラオケや朗読などでも、多くの方に“先生”をしてもらっています。初心者にパソコンを教えてあげるとか、ちょっとした特技でいいんですよ」（沢田さん）

　鳥飼さんは、街コンが主催した「東京シティ競馬」見物ツアーなどに参加し、手作りの運営を見て、「私にもできるかな」と退職の翌年にボランティア登録。料理教室の予定が会員へのお知らせに載り、希望者が集まってスタートした、というわけだ。

　「自分に何ができるかを自覚してボランティアに臨むことが大切。即戦力にならないと意味がないと思う」と鳥飼さんは話す。

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　「街コン」の活動は、中延商店街にさまざまな恩恵をもたらしている。商店街にとっては特に、有償ボランティアらに対価として、商店街で使える商品券に交換できるクーポン券が渡されることが大きい。

　対価は依頼内容によって異なるが、「昨年は約１０００万円の商品券発行につながった」（沢田さん）という。みんな地元に住む会員だから、日々の買い物で商店街に還元される。

　料理教室の食材を商店街で調達したり、飲食店でグルメ体験のイベントをするのも、売り上げアップにつながる。特に、食べ歩きのイベントは、閑散とした時間帯に１０数人が連れ立って出かけるうえ、「外食の機会の少なかった高齢者が以後、来店するきっかけになる」と、店側にも好評だという。

　高齢者を軸とした有償ボランティア活動は、商店街の方向性ともピッタリ合った。都心に近い中延商店街は「来街者の５０％が５０歳以上」と若い客が少ない。このため、商店街も「＋（プラス）５０」を合言葉に、中高年向け商品を前面に打ち出す店づくりに力を入れてきたからだ。

　洋品店を営む中延商店街の鶴田劭（すすむ）副理事長（６５）は「（商品券などの）効果が徐々に出てきている。次は、街コンを通じて商店街に来てくれた人を離さないように、こちらが仕掛ける番だ」と、街コンの試みを評価する。

　今年から大量退職が始まった「団塊の世代」の動向は、日本全体の個人消費の行方を決めるともいわれる。それだけに、各地で有償ボランティアの取り組みを通して、この世代を呼び込めれば、“シャッター通り”の活性化や地域格差是正にもつながるかもしれない。

(2007/04/12)