産経新聞社

ゆうゆうLife

シニアの住み替え支援(上)


 ■若年層に売却 リフォームで資産価値高く

 家族構成や生活の変化に合わせて住み替えを考えるシニアが増えています。しかし、問題になるのは、持ち家をどうするか。やっとの思いで手にしたわが家。売却か賃貸か、そのまま空き家にするか−。頭を悩ませる人は少なくありません。いま、シニアに照準を合わせ、中古住宅のさまざまな活用法が提案されています。(横内孝)

 横浜市青葉区に住む70代の主婦、山田千代さん=仮名=は来年10月、東急田園都市線の駅に近い3LDKの新築マンションに転居する。

 現在は同じ沿線の駅からバスで10分強の戸建てに住んでいる。しかし、「昨年主人が亡くなり、1人で広い家を維持、管理していくのが難しくなりました。最近は植木鉢ひとつ動かすのも大変なんです」ともらす。

 近くに住む娘夫婦も母親を心配し、「不用心だし、交通の便も悪い」と、セキュリティーに優れた駅に近いマンションへの転居を勧めた。

 11年暮らした2階建ての住まいをどうするかが課題だったが、山田さんは東京急行電鉄(東京都渋谷区)の住み替え事業で売却することにした。この事業は、東急田園都市線沿線で築10年以上の戸建て住宅に住む人が対象。同社が建物を新築同様にリフォームして資産価値を高め、売買を仲介する。一定期間内に売れなければ、同社が買い上げる。山田さんはこれで手にする約6000万円で新築マンションを購入する。「煩わしい手続きがないし、確実に売れるから安心です」

 同事業で契約が成立したのは今年10月末までに27件。累計契約件数は60件を超えた。同社住宅事業部の呉東建課長によると、物件の中心は最寄り駅からバスで10〜20分の敷地60坪前後の一戸建て。売り手の多くは60過ぎの夫婦2人暮らしで、買い手は30代後半から40代のファミリー層が多いという。

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 電通が昨年8月、19年中に60歳になる全国のサラリーマン夫婦を対象に、インターネットで「定年をきっかけにやりたいこと」を聞いたところ、3割が国内移住や住み替えなど希望した。

 高まるシニアの住み替え願望を視野に、積水ハウス(大阪市)も今年3月から、住み替え事業に参入した。過去に同社が販売した戸建て70万戸のオーナーなどを対象に、市場よりも有利な査定価格で物件を買い取る。

 買い取った住宅は同社がリフォームし、若年層に販売する。瀬戸洋信ストック事業部長は「当社が直接、買い取るため、通常の不動産売買のように買い手がつくまで待たずに済み、スムーズな住み替えができる」と自信を見せる。初年度は100件、来年度は600件、将来的には年間1000件の買い取りが目標だ。

 両社の担当者とも口をそろえるのが、「家を手放す人の多くが思い出の詰まった家を取り壊してほしくないと思っている」という点。利用者は確実に売却できる安心感に加え、愛着のある家が若い世代に“住み継がれる”仕組みを評価しているようだ。

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 ただ、日本はもともと新築・持ち家志向が強く、中古の住宅市場は小さい。17年度の国土交通白書によると、全住宅取引戸数に占める中古住宅の割合はわずか13%。英国(89%)、米国(77%)などと比べ、新築と中古の比率が逆転している。

 理由としては、いざ売却を決め、不動産会社に仲介を頼んでも、いつ、いくらで売れるかが不透明。何度も値下げを迫られたり、なかなか成約に至らないことなどがありそうだ。また、築20年もたつと建物の価値はほとんどゼロと査定され、状況によっては建物の解体代金を求められるケースさえある。

 明治大学理工学部の園田真理子准教授は「65歳以上の世帯の持ち家率は85%。ただ、長く続いた地価の下落で、自宅を買ったときより安値でしか売れないケースもあり、そのまま住み続けようと考える人も少なくない」とみる。

 中古の住宅市場が成熟していないだけに、シニアの住み替え需要を受けて、賃貸市場もサービスを広げている。

 日本賃貸住宅管理協会(東京都千代田区)は「住替え支援センター」を4年前に設置。住み替え希望のシニアの相談に無料で応じている。今年5月までに寄せられた相談は870件。うち、具体的な相談は全体の2割に当たる165件だった。現在所有する物件の活用方法については、賃貸希望が64%で最も多く、売却希望の18%の3倍以上となっている。

 住宅ローンを長年、払って手に入れた念願のマイホーム。売却もひとつの方法だが、手放さずに資産として生かす選択肢もある。次回は中古住宅が“第2の年金”になる賃貸の手法を紹介する。

(2007/11/28)