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今から考える葬儀のこと(中)




 ■分かりにくい費用と相場

 葬儀費用はどのくらいか−。葬儀は高額なサービスにもかかわらず、「価格についての情報が少なく、分かりにくい」との声が聞かれます。葬儀にかかる費用、葬儀後に健康保険から給付される葬祭費・埋葬料を調べてみました。(横内孝)

 4年前に、70歳の母親をがんで亡くした横浜市の会社員、杉本大輔さん(43)=仮名=は病身の父親に代わり、喪主として葬儀を行った。元気なころ、母親から「互助会(冠婚葬祭互助会)に入っているから大丈夫よ」と聞いており、病院出入りの葬儀社の申し入れを断って、互助会に相談した。

 互助会は所定の月掛け金を前払いすることで、将来の冠婚葬祭サービスを利用する権利を得る制度。預貯金などと違い、利息は発生しない。

 しかし、杉本さんの場合、母親が「大丈夫よ」と請け合ったような具合にはならなかった。30年以上前に契約したコースは、3万円満期が2口。払い込んだのは計6万円だった。今はないコースで、杉本さんは「当時の契約内容を確認できる資料は残っていないし、それが今なら、いくらのコースに相当するのか、担当者の説明もない。6万円ですべてまかなえるとはもちろん、思っていませんでしたが…」と話す。

 杉本さんが式前に受け取った見積もりには136万円と書かれていたが、これは祭壇一式や棺、式場使用料など、葬儀一式の額。飲食接待費や供花、寺院へのお礼は含まれていない。総額がいくらになるかは請求書が届くまで分からずじまいだった。

 結局、葬儀社に払った葬儀一式では、「互助会割引」として約65万円が引かれ、約113万円に。ほかに、通夜・葬儀の食事など飲食接待費約35万円、お布施、戒名料など寺院費用37万円、供花代約17万円で総額は202万円と見積もりの1・5倍に上った。

 「母が互助会に払い込んだ実費6万円を引くと、約60万円を割引いてもらった。結構な値引きですが、元の価格が適正かどうかの判断材料がないので、得をしたのかどうかも判断できません。車と同じような値段なのに、葬儀は適正価格も相場も分からない。車なら、カタログで価格も比較できるが、葬儀サービスはそうはいかないので厄介です」と話す。

 杉本さんがそう言うのも、一つは、葬儀の相場が分からないから。全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)が昨年、日本消費者協会に委託して会員ら1400人を対象に行ったアンケートでは、実際の葬儀費用は4年前とほぼ同水準で、全国平均で231万円。項目別では、葬儀一式が約142万円、飲食接待費が約40万円、寺院費が約54万円に上った。

 葬儀社や互助会が使う「葬儀一式」という言葉には誤解が多い。あさがお葬儀社紹介センターを運営するNPO法人「マイエリア」の有賀知道理事長は「『葬儀一式OO円』というセールストークを聞くと、利用者はこれですべてをまかなえると思ってしまうが、『一式』に葬儀で必要な備品・サービスすべてが含まれているわけではない。飲食接待費や寺院費用などは別途必要になる。言葉の解釈の違いで、トラブルが生じるケースが多い」と指摘する。

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 ■医療保険で葬祭費給付

 葬儀費用の一部を助成する制度が、公的医療保険にはある。葬祭費、埋葬料の給付だ。

 国民健康保険(国保)では、葬祭費は市区町村(保険者)の任意給付。被保険者が亡くなった場合、市区町村の窓口に請求すると、葬儀を行った人に支給される。厚生労働省は「金額や基準は、保険者が決めており、19年4月時点では、4万円超5万円以下が保険者の3分の1で最多。自治体間格差もあり、7000円(北海道初山別村)から12万円(新潟県刈羽村・現在は5万円)まで大きく開いている」と説明する。

 4月から始まった後期高齢者医療制度でも、被保険者が亡くなった場合、葬祭費が支給される。2万〜5万円が多いが、東京都の後期高齢者医療広域連合は全国で唯一、葬祭費を支給しない。代わりに、市区町村が一般財源で葬祭費を支給する。東京都の広域連合はこれで、後期高齢者医療の被保険者の保険料を3000円抑えた。

 サラリーマンが入る被用者保険でも、被保険者には埋葬料(費)、扶養家族には家族埋葬料が給付される。額は一律5万円。組合によっては、数万円が上乗せされる。

 ただし、死亡が労災に当たる場合は、健康保険ではなく、労災保険から「葬祭料」などが支給される。31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額、または給付基礎日額の60日分のいずれか高い方が支給される。いずれの給付も、葬儀の翌日から2年以内に申請手続きをしないと時効なので注意が必要だ。

(2008/09/23)